なんか変なお話(笑)その1



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投稿者: 神崎 操 @ pppc822.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/1/08 10:00:27



帝國華撃団が活躍した時代から10年近い歳月が流れていた。

時は、1935年―――――

辺りはすっかり闇夜に包まれていた………
大通りを通う人影はもう無かった。
町の一角に一軒の屋敷が有った。
家の中では、一組の親子が寝室でベッドに腰掛けてアルバムを見ていた。

「うわ!パパの軍服姿だ!しかも戦艦に乗ってる!かっこいい!」

子供が写真を見てはしゃいでいる。

「父さん、昔は海軍将校だったんだ」

父親は少し得意げに我が子にそう言った。
そして、手に持ったアルバムから別の写真を探し始めた。そして何かを見つける
とアルバムを息子の方へと向けて見せた。

「どうだ、これが大帝國劇場だ!凄いだろう」

父親がそう言ってアルバムに貼り付けてある一枚の写真を指さした。

「うわあ………おっきい建物だったんだね!」

男の子は写真とは思えない程の迫力にただ驚くしか無かった。
そして、もっとよく見よう思った男の子はアルバムに手を触れた。
その拍子にアルバムから、一枚の写真が床へ滑り落ちていった。
それに気付いた男の子は腰掛けたベッドから降りて床に落ちた一枚の写真を
拾い上げた。

「あ!………」

その写真を見た男の子は思わず声を上げた。
男の子の持つ写真には劇場の舞台でスポットライトを浴びる女優の姿が写って
いた。

「…ママだ………………」

男の子は小さくそう呟いた。

「母さん…綺麗だろ?」

父親は、息子の肩に手を回し一緒になって写真を見ながらそう言った。

「うん………」

男の子はそう返事をしながらも母親の写った写真を食い入るように見つめて
いた。

「………………………………」

男の子は瞬きもせずに写真を見たまま黙り込んでしまった。

「………………」

「………………」

父親は黙り込んでしまった息子に気付き話しかけた。

「どうした?公司?」

父親に言われ、我に返った息子――公司は、写真を見つめたまま口を開いた。

「ねぇ、パパ………僕のママはどんな人なの?」

まだ、年端もいかない公司は父親に疑問をぶつけた。

「とっても優しい人だよ…いつも大きな声で高笑いばかりしてたり…よく着物
の裾を踏まれて顔面から着地したりするけど…笑顔のとっても素敵な人だよ」

公司の父親は何かを思い出す様にそう答えた。

「………………ママ、どこに行ってるの?」

公司のその言葉を聞いた父親は一瞬悲しげな表情を浮かべて答えた。

「とっても遠い所だよ…」

「いつになったら帰ってくるの?僕、ママに会いたいな………」

父親は、しばらく考え込んでから公司に言った。

「公司がいい子にしていればすぐに帰ってくるよ」

「ホント!?」

公司は父親の言葉にぱっと表情を明るくして父親にそう聞いた。
父親は、我が子の表情が明るくなれば成る程重苦しい思いに駆られるのを何とか
払いのけ、優しい声で公司にもう寝るように言った。

「いい子はそろそろ寝る時間だ…」

「うん!おやすみなさい、パパ!」

公司はそう言ってベッドに潜り込んで眠りに就いた。

「………………」

父親は公司が眠りに就いた後もしばらく公司の母親の映った写真を眺めていた。
そしてポツリと、かすかに呟いた。

「………………………………すみれ………」

そう呟いた公司の父親の目には光る物が有った。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「うるさい!お前なんか、こないだしょんべん洩らしてピーピー泣いていた
くせに生意気言うな!」

ほんの些細な出来事から一人の少年が二人組の少年達に食ってかかっていた。
食ってかかっていた少年は公司だった。

「なんだと!公司!お前の方こそ先週、野グソ踏んでいたろうが!」

二人組のうちの一人が公司にそう言い返した。

「ウソ付くな!俺は野グソなんか踏んでないぞ!」

公司は即座に否定した。

「おい…敏、お前しょんべん洩らして泣いたのか?」

二人組の残りの一人が横やりを入れた。

「うるさい!勝之!そんな事言ってないでお前も公司になんか言ってやれ!」

敏は、しょんべん洩らした事を言われてカッ!となっていた。

「………なぁ…公司…今のは少し言い過ぎだぞ……」

勝之は、仕方なく敏の味方をして公司に謝罪を促した。

「俺が謝る理由は無い!」

公司は勝之の要求をあっさりと突っぱねた。

「ふん…公司、お前がそんなに分からず屋の阿呆だとは知らなかったよ………」

敏は思いっきり嫌みな顔をしてそう言いさらに言葉を続けた。

「公司の母ちゃんが帰ってこないのも公司の事が嫌いだからじゃないのか?」

敏のその言葉を聞いた瞬間、公司は息が詰まる思いだった。

「………る…さい」

公司の身体は小さく震えていた。そして次の瞬間公司は敏を突き飛ばしてから
どこかへ走り去っていった。

「いてぇじゃねぇか!公司!」

後ろの方から敏の罵声が飛んだが公司の耳には全く入ってなかった。

しばらくして公司は家に帰って自室にこもっていた。
まだ少年である公司には大きすぎるベッドに、うつぶせに大の字になっていた。

(………お母さん……………なんで帰って来てくれないの?………)

(……………僕はお母さんの事…………何も憶えてない……………)

(お母さんの声…どんな声だろう……お母さんのにおい…どんな…)

(…僕が嫌いだから居なくなったの?…………………………………)

(…………僕が…嫌い…だか……ら………帰って……こないの?…)

最近は自分の事を「俺」と呼んでいた公司がいつの間にか心の中で自分の事を
「僕」と呼んでいた。
母親に甘えたい気持ちが、そして…叶わない故の寂しさがそうさせていた。
そして、公司は枕を力いっぱい抱きしめて身を震わせた。
頬に涙を伝わらせながら………