Re: 【師走大戦】再会は悲しみの川を越えて・2(長文)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti012.osk.3web.ne.jp on 97/12/27 07:54:46

In Reply to: 【師走大戦】再会は悲しみの川を越えて・1(長文)

posted by うぉーろっ君 @ tkti012.osk.3web.ne.jp on 97/12/27 07:53:40

☆          ★          ☆


『せっかく逃げ出せたのに、なんで俺は戻ろうとしてるんだ?』
『決まってるでしゅ。「榊原」を抹殺するためでしゅよ』
『違う! あそこには彼女が……彼女が待ってるから……』
『違わないじゃないでしゅか。彼女……っていうか☆彡 榊原を……』
『違う! 榊原なんて知らない! すみれ……神崎すみれが……!』
『ふみゅ? 榊原の横にいた美しい女性のことでしゅね? いいでしゅねぇ。
僕のお嫁さんにしたいでしゅ〜☆彡』
『黙れ! お前なんかに、彼女は指一本触れさせはしない!!』
『ていうか〜☆彡 あんたは僕でしゅし、僕はあんたでしゅよ☆彡 同じじゃ
ないでしゅか☆彡』
『違う!』
『同じでしゅよ』
『違う!!』

「……これはまた……珍客ですね……」

 声の主のデータ検索。…………Match.
 帝撃花組隊長、大神一郎。
 知らぬ間に、劇場のすぐ近くまで戻ってきていたらしい。

☆          ★          ☆


「折角のイブに生憎の曇り空で星一つ見えないと言うのが残念ですけど、
まだホワイトクリスマスという望みが持てそうな空だとも言えます。
二つの側面を持ち合わせた空……」

 すっかり日も沈んで暗くなった空に視線を向けて、声の主――大神一郎は
言葉を続ける。

「まさに、今のあなたの心みたいじゃないですか」
『……!』

 甲冑が、微かに首を動かす。人間の行動に当てはめれば、図星を指された
ショックで目を見開いてる、といったところか。

『何故……わかるんでしゅか……?』
「隊長だからですよ」

 声を絞り出すような甲冑の質問に、大神は刹那の間も置かずに即答する。
まともな返答とは受け取ってもらえないことを承知の上で。
 花組の隊長になってから、他人の心の機微にやたらと鋭くなっている。
今回も、この甲冑が歩いてくる姿をしばらく見ただけで、おおよその事情を
察知できた。

「一つの身体に二つの心……いや、一つの心に同居する二つの側面」

 心だけでも救ってくれた制作者への恩に報いるために『任務』を遂行しようと
する側面と、過去に果たせなかった『約束』を守らんとする側面。

「――どちらも、あなたの心には違いない」

 さすがに、それがどんな約束なのかまではわからない。だが、それが
大神自身にとって何より大切な女性(ひと)――神崎すみれに関わることで
あると言うことは、なんとなくではあるが、わかった。

『お前……いったい何者でしゅ……?』
「“新型降魔”ですよ」
『!……やはり、お前が先遣の部隊を……。榊原の前に、お前も殺すでしゅ!』
『やめろ! その人を殺したら、あいつが悲しむ! お前の言う「榊原」とか
言う人だって、手に掛けたらあいつが……!』

『諦めるでしゅよ。もうたちは元の姿には戻れないんでしゅから。
もう、あいつには俺たちが誰なのかなんてわからないでしゅよ』

 いつの間にか“表側の心”の一人称と、「誰か」に対する二人称――おそらく
神崎すみれ――が、“裏側の心”のそれと同じになっている。

『そんなことはわかってる! 俺だって、こんなみっともない姿をまた
あいつに見せるのは嫌だ。でも、やっぱり約束を守れなかった詫びの一言を
言いたいんだ! もう元の姿には戻れないからこそ、“生きている”
今の内に!』

『そんなことしたら、両方とも傷つくだけでしゅ! もう俺たちには、任務を
遂行することしか出来ることは無いんでしゅよ!』

「やっぱり一つの心なんだな……想いの根っこは両方とも同じだ」

 今の甲冑の行動理由は、すみれ一人の為だけに注がれている。ただ、
その為の手段が、表と裏とで違うだけだ。人間が、理性と感情との狭間で
葛藤するのとまったく同じなのだ。

『死ぬでしゅ! 大神一郎!!』
『どいてくれ! あいつの元へ行かせてくれ!!』

 とりあえず、目の前の障害である大神をどうにかしてから、と言うことで
双方の折り合いが付いたようだ。

「その一途な想いを利用され、冷たい機械に閉じ込められた熱い心……か。
悲しいな」

 大神の顔に一瞬だけ浮かんだ憂いの表情が、次の瞬間、何かしら決意を秘めた
表情に取って代わる。
 甲冑から目線を外さずに、大神は刀を一本だけ鞘から引き抜いた。

「あやめさん……俺に力を貸して下さい……!」

『覚悟するでしゅ〜!!』
『早く逃げろ! 傷付けたくない!』

 目の前に迫ってきた甲冑に向かい、大神は刀を振りかぶった。