投稿者: うぉーろっ君 @ tkti012.osk.3web.ne.jp on 97/12/27 07:55:50
In Reply to: Re: 【師走大戦】再会は悲しみの川を越えて・2(長文)
『――それで勝ったつもりでしゅか?』 大神の刀は、刃の中程まで甲冑の背中に突き刺さっている。甲冑の攻撃を かいくぐって背後に回り込み、突き立てたのだ。相手が生身の人間ならば 脊髄が砕かれ、致命傷となるところだが。 『その程度で俺の想いが止められるとでも……!! 何!? 動けない だと!?』 甲冑が動こうとする力の向きを先読みし、その反対方向のベクトルを、刀を 通じて与えているのだ。腕は自由に動かせるだろうが、それをぶつけるべき 相手は背後にいるため、攻撃は届かない。 『味な真似をするでしゅね! でもこの程度の技、一瞬で破れましゅよ!』 「一瞬あれば充分! 狼虎滅却・転移夢想(てんいむそう)!」 光が見える。 全くの闇の中で、目を開けていられないほどの輝きを放ち。 でも、目を向けずにはいられない、優しい光が。 ――琴の音の 流れて消ゆる 川の瀬に すもとりばなと ともに結ばん―― 光の中から声が聞こえる。 この光の中に一歩、足を踏み出せば、自分は救われる。 血の通わない冷たい身体、押しつけられた恩……全てのしがらみから。 そんな……気がした。いや、理解した。理屈ではなく、本能的に。 『しかし……』 その一歩が踏み出せない。未知の扉を開ける事への不安。それもまた、本能。 理解も不安も、全ては自分が人間であるが故。 しかし、 ――琴の音の 流れて消ゆる 川の瀬に すもとりばなと ともに結ばん―― さっきと同じ言葉に添えられたもう一つの言葉で決心が付いた。 一歩を踏み出す、決心が。 「俺と一緒に、彼女を守ろう……」 『ああ……今行く。末永くよろしく頼むぜ、少尉さん』 もう、心は一つ。しがらみのない今、葛藤する必要はない。 少年は光をくぐる。 守れなかった約束を果たすために。 そして彼女を、守るために。
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