![]() ![]() 投稿者: うぉーろっ君 @ tkti012.osk.3web.ne.jp on 97/12/27 07:56:38
In Reply to: Re: 【師走大戦】再会は悲しみの川を越えて・3(長文)
「斃した……んですの?」 「ああ」 その場にたどり着いたとき、決着は既に付いていた。立っていたのは、 誰よりも何よりも大切な人。なのに何故、傍らに倒れ伏し、動かない蒸気甲冑を 見ると、胸が痛むのだろう。 「彼には、いろいろと訊きたいこともございましたが……仕方ないですわね。 少尉がご無事で何よりですわ」 いるわけがないのだ。もう五年も前に逝ってしまった「あの人」が。 甲冑がこぼした台詞は、空耳。こないだ見た、夢の続き。 「帰りましょう、少尉。皆さんが心配いたしますわ」 一足先に帝劇へと歩み始めたすみれを、 「きゃっ!?」 背後から大神が抱きしめた。吐息が、彼女の耳をくすぐる。 「しょ、少尉……?」 「御免……」 「な、何がですの?」 「御免な、遅くなっちまって……」 「!?」 いつもの大神らしくない、ぶっきらぼうな言葉遣い。だが、いつもの大神と 同じように暖かさを感じるその言葉に、思わず振り返ろうとするが、未だ しっかりと抱きしめられているために、それは叶わなかった。 それでも振り返ろうと頭を左右に揺らす彼女に、彼は言葉を続ける。 「お待たせ。キツネにそっくりな、お嬢さん」 「!!! あ、あなたは一体……?」 「って言うか、五年も遅刻しといて、お待たせ、は無いか。御免な……約束、 守れなくって」 すみれは振り返ろうともがくのをやめた。身体の力を抜き、彼の腕へと身を ゆだねる。理解したのだ、全てを。 「少尉の中に……あなたはいらっしゃるのね……」 「ああ。彼が俺を救ってくれた。人型蒸気という檻の中から」 狼虎滅却・転移夢想。 相手の悲しく、果たせぬ思いを理解し、その上で相手の心を、刀を介して 自分の内に取り込み、おのれと相手の心とを結びつける技。「狼虎滅却」唯一の “活人の剣”。 極めて特殊な技ゆえに、世界に優しい想いが満ちる特別なときにしか 使えない技――後日、すみれが大神の口から聞いた話である。 「そして……これからは……」 言葉が途切れる。が、すぐに顔を上げ、 『彼と共に、きみを守る』 同じようで違うような二つの声と共に、腕の抱きしめる力が強まった。 少し痛いが、それ以上に深まる温もりが心地良い。 「本当に……守って下さいますの……?」 「ああ……」 「絶対に……?」 「ああ……」 すみれは胸の熱くなる思いで、彼の腕に触れた。顔が見られないのが 悔しいが、今はたとえ一瞬でも、彼から離れたくはなかった。 「わたくしは幸せ者ですわ……こんな素晴らしい殿方たちと共にいられる なんて……。わたくしより幸せな人なんて、世界中どこ探しても居や しませんわ……」 心の中で独白する。間違っても口に出し、彼の男心を満足させたりはしない。 それが、五年も遅れてきた彼への、そして、甲冑を斃したことで、一時的だとは 言え、自分を悲しい目に遭わせた彼への、ちょっとした仕返し。 「ここは冷える……さぁ、帰ろうか?」 彼女から離れようと力を抜く彼の腕に、すみれはしがみついた。 「まだ……このままでいて下さい……」 「ん?……ああ……」 言われて彼は、再び腕に優しく力を込めた。 「あと……ほんの少しの間でかまいませんから……」 「ああ……」 やきもち焼きな雪の精が、二人のいる街を、冷たい純白のヴェールで包む。 だけど二人は、暖かい――。 ![]()
![]() |