![]() ![]() 投稿者: うぉーろっ君 @ tkti012.osk.3web.ne.jp on 97/12/27 07:53:40
「なんですって!? 居なくなったぁ!?」 すみれの声が、帝劇地下に響きわたる。 地下整備工場。霊子甲冑が破損したときの修理に使われる、花組隊員では 紅蘭以外、滅多に立ち入らない場所に彼女はいる。 「ええ……紅蘭に見てもらおうと、呼びに行ってる隙に」 すみれの傍らに立つ由里が、今は何も乗っていない機械整備用の台に手を 添える。この台には、つい先程まで最新式の蒸気甲冑が鎮座ましましていた。 自分の意思で動き、流暢……とは言い難いが、多少のへんてこな訛り程度で 言葉も交わす、陸軍がひそかに開発していたと思われるマシン。 しかし、その意思は任務遂行のためにしか働かない、悲しき操り人形……。 の、はずなのだ。少なくとも、由里はそう思っているだろう。 その蒸気甲冑は先日、すみれが由里と共に買い物に出かけた帰りに遭遇し、 突然、由里を「抹殺する」と言って襲撃してきたのだ。 しかし甲冑は、由里のピンチに飛び出してきたすみれの姿を見るなり、 いきなり頭を抱えて意味不明の単語を口走り、倒れて動かなくなった。 そう、意味不明なのだ。第三者には。 「どうして、わたくししか知らないはずの思い出を……?」 「ん? すみれはん、なんか言うた?」 すみれが無意識のうちにこぼした呟きを耳にした、由里に呼ばれてここに 来ていた紅蘭に、 「いえ、なんでもありませんわ」 そっけない返事をする。人を気遣う返事を考える心の余裕はなかった。 「ふ〜ん。……で、由里。ホンマにその話、間違い無いんか?」 既に紅蘭の興味は逃げ出した蒸気甲冑へと向いたようだ。 「ええ、間違いないわ。陸軍が密かに開発していた局地戦用霊子甲冑…… 調べたら、あたしたちにかなり有利になったはずなのに……」 「しかし、せっかく世界の滅亡をまぬがれたっちゅーのに、今度はウチら 人間同士がいがみ合うてるなんてな……」 「……仕方ないわよ。降りかかる火の粉は払わないと」 二人の会話も、すみれの耳にはほとんど届いていない。彼女はまた別の 意味で、あの甲冑のことに思いを馳せていたのだ。もっとも、たとえ二人の話を ちゃんと聞いていたところで、事情を知らないすみれには理解できなかったで あろうが。 「本当に『あの人』なの? そんな、まさか……」 自問自答を繰り返しながら地下を出ていく彼女に、白熱した議論を 交わしている二人が気付くことはなかった。 ![]()
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