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投稿者:
Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/02 17:02:58
特別小説、3月3日
時あたかも冬から春へと移ろう頃、如月の終盤。帝都は世間の雛祭りを待ち遠しく思う少女達への祝福の如く澄み渡った空と麗らかな陽気に囲まれている。
そんな中、モギリの大神一郎は事務から頼まれた、と言うよりは押しつけられた買い物を済ませ、大帝国劇場への帰路にあった。このところ、しょっちゅう外出する用事を頼まれるが故に、その都度自分の買い物にも手を染めていた。だから当然彼の財布にだけは春はやって来ていなかった。
劇場に帰ってきた大神は一目で異変に気付く。売店に椿がいないのだ。この時間は売店への仕入れ物の搬入を行っていなければならない時間。
「どうしたんだろう、椿ちゃん。事務室の方かな?」
そう思い、買い物を置くついでに事務所に向かう大神にはまた困惑が覆い被さった。次は由里もかすみもいないのであった。
「おかしいな、どうして誰もいないんだ。」
「お兄ちゃん、」
荷物を置いて事務室を出てきた大神を呼び止める声、声のする方を振り向くと、アイリスが階段の影から大神を呼び止めた。怪訝な大神の精神整理の時間を与える間もなく、アイリスは大神の手を引っ張って階下、つまり地下室に連れていった。
「おい、アイリス、どうかしたのかい?」
「しっ、黙って付いてきて、お兄ちゃん。」
言われるがままに付いていく大神、二人が向かった先は地下の作戦室、そこには椿、かすみ、由里以外にも米田、あやめも、花組の殆どが集まっていた、ただ一人を除いては。
「みんな、なんでこんな所に集まって、」
「まあいいから座れ、大神。」
米田の言に従い、彼も腰を下ろす。その周りには真剣に何かを考える花組の面々が揃っていた。
「何をしているんだい、マリア。」
「隊長、実は紅蘭のことです。」
紅蘭、確かにここには紅蘭の姿だけがない、彼女が何かしでかしたのか、はたまた彼女の身に何かが起こったのであろうか。
「紅蘭、発明が行き詰まってて最近元気もないんですよ、大神さん。」
「こう言っちゃ悪いけど、そんなのはよくある事じゃないのかい、さくらくん。」
「そうなんですけど、今回はその上閉じこもりっきりになって。」
「そこで大神さんに元気づけてもらいたいんですよ。」
「そんなことでここにこんなに集まったのかい?かすみくん。」
「それがそれだけでもないんです。」
理解しがたい状況だ。しかし、ただ事とも思えない。次のあやめの発言が事態に少し透明感をもたらした。
「実は、研究用と言って紅蘭の持ち込んだナメクジが逃げ出して、劇場中に入り込んだのよ。」
とんでもない事だ。しかしそれで作戦室とは.....
「じゃあ早く処理しないと。」
「今、風組の皆さんがこちらに向かってますから、行動はそれからなんです。」
「かすみくん、そうはいってもどこに入り込むか分からないようなものを放っておいたら、」
「幸い、ここはシルスウス鋼で密閉状態ですから。ここで待機するのが良い方法かと。」
「まったく、いい迷惑ですわ。たかがナメクジのおかげでこんな事に。」
「しかし、支配人やカンナまでナメクジが嫌いで?」
「あたいはいいんだけどよ、どうも駆除できなくってさ、細かい仕事が苦手で。それでここにいるだけさ。」
「俺ゃあ、あんなもんがうろついている所じゃあ酒がまずくなるからいるだけだ。」
「は、はあ...」
納得できるのか、納得できないのか、ともあれ、ほぼ全員集合で花組が一人欠けている珍しい光景である。
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