第一幕



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投稿者: 倭寇三勇士 @ ykh049.tky.threewebnet.or.jp on 97/10/04 23:38:20

In Reply to: サターンの金さん 第26回

posted by 倭寇三勇士 @ ykh049.tky.threewebnet.or.jp on 97/10/04 23:37:14

(第一幕)

 素浪人・車一徹の地獄車により重傷を負わされた遠山は、同心・橋本と目明かし・平次により遠山家屋敷に運び込まれた。即座に御殿医による治療が行われ、一時は快方に向かうものの、今までの過酷な所業が仇なして、肺炎を併発、39度を越える高熱が続き、心身共に危険な状態が続いていたのだった。

−サターン町奉行所−
与力・脇坂(以下)「皆の者に申し伝えておくことがある。御奉行が重体であることは、知っていよう。しかし、事が事である故に、御老中の耳に入れば御奉行の進退問題にも発展しかねない。既に風の噂で聞き得た瓦版屋が、こそこそと探りを入れておるようじゃ。安否を気遣う投書も目安箱に多数寄せられておる。しかし、あくまで御奉行は、休暇で留守という事にしてある。間違っても、素性の判らぬ浪人者に重傷を負わされたなどと口走るでないぞ!」
同心全員「心得ておりまする。町人に対しても要らぬ心配をかけぬよう、決して口外などはいたしませぬ。」
「その通りじゃ。酒の席などは特に気をつけよ。気がゆるむからな。」
同心・橋本(以下)「しかし我らが敬愛する御奉行に重傷を負わせた浪人らしき男、断じて許すまじ。かならず、この手で引っ捕らえてやる!」
「わかっておる、いわずもがなじゃ。今、書院番に命じて、町中の浪人の一覧を作らせている所じゃ。よいか、これは我が奉行所の名誉に賭けても、その素浪人を捜し出すのじゃ。ただし、先程も申したように、決してこのことを口外するで無いぞ。」
同心全員「おう!」

意気上がる同心達。
しかし実はその中にただ一人だけ、ほくそ笑んでいる人物がいたのであった。



こうしてサターン町奉行所をあげての大捜査が開始されたのである。
同心・橋本は早速、相方の目明かし平次を呼んで、その浪人者の人相書きを作らせた。
目明かし・平次(以下)「ええとお、旦那あ、っちと暗かったもんではっきりとは覚えちゃいないんで…。いえ、なにせその元からして、人の顔を覚えるのが苦手な性分でやして。」
「大馬鹿者!この一大事に何をぬかしておる!四の五の言わずと思い出せ!」
「へ、へい...!そう、確か、...背丈は六尺弱、年の頃なら四十半ばでございやしょうか。ん、...か、顔はってえと...。」
「特徴さえ言えばよい。」
「うーん...、髪の毛は短かったでやす、それと...眉は太くて眼孔鋭く..髭ははやしてなかったようで、...鼻の穴が広かったくらいでやすかね。」
「よし!それでよかろう。人相書きを作らせるとするか。」

同心・小沢は、浪人者一覧に基づき、長屋の徹底探索を行った。
浪人者「な、なにしやがる、勝手に人の家へ上がり込みやがって!」
小沢「タダの傘張り職人か、邪魔したな。」

おなじく同心・美濃部は、賭場の手入れを、
美濃部「ギャンブルは禁止しておるはずじゃ!引っ捕らえよ。」
賭場の元締「畜生!手入れかい。みんなずらかれい!」
美濃部「逃す出ないぞ。特に浪人者はな。」
こうして幾人かの浪人者が捕らえられたが、車一徹らしき人物はいなかった。

また、しばらくして人相書きが町中の至る所で張り出された。
「なんだこいつ一体何やっただ!?」
「誰か字の読める奴、読んでけろ。」
「なんでも牢破りの極悪非道人らしいだ。」
「牢破り!あな恐ろしや。」
「でも居場所を通報した者には、賞金がなんと、ひ、ひ、百両!だってよ。」
ざわざわざわ...

「どうだ平次。あの野次馬の中に、それらしき者はおるか。」
「ええっと、...い、いねえみたいで。」
「もっとしっかり見んか!」
「へ、へい」

しかし、八方を尽くしても、なしのつぶてだった。いたずらに時は流れ、もう事件の日から1週間が過ぎようとしていた。遠山の容態、今だ回復せず!