仮想外伝4幕、帝劇如月野外公演、後編



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投稿者: Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/05 14:37:48

 花やしき内の特設舞台と観客席。蒸気による暖房施設も取り入れ、屋根も張って急ごしらえにしては立派な建物になった。これも風組のなせる技なのだろう。

 「皆様、長らくお待たせいたしました、李紅蘭脚本・演出による帝国歌劇団二月特別公演”雪女伝説”、これより開演です。それでは、最後までごゆっくりお楽しみ下さい。」

 場内からわれんばかりの拍手の中、舞台に照明が入る。

 「ふう、まさかこんな雪の中、花やしきで場内放送をするなんて思わなかったわ。」

 「ご苦労様、かすみさん。椿と由里も仕事があって、貴女にしか頼めなかったの、許して下さる?」

 「すみれさん、許すも何もこれも仕事ですよ。」

 「あらそうでしたわね、わたくしとしたことが。おっほほほほほ、」

 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ、開演ベルが鳴り響く。客席からはわれんばかりの拍手、とてもあの寒空の中に立ちづくしで待ちぼうけを食っていた者達から感じられる熱とは思えない。

 「あら、開演よ。」

 「かすみさんは裏方もよろしく御願いね。」

 「ええ。」

 

 「…極寒の冬山、吹雪く雪原。こんな中、山菜取りに出かけた桐島カンナは一人道に迷う。日も暮れて提灯の明かりも消え失せて野道すらも雪に埋もれ、星を頼ろうにも吹雪く空ではそれすらままならない。…」

 舞台横で台本の朗読(ナレーション)を行う大神、誰でも出来そうだが、これがこれで結構難しい。

 なお、劇中で本名登場のカンナの役所は東北地方のとある村の木こり青年というところである。

 「大神さん、朗読お疲れさま。大変でした?」

 「そうでもないよ、由里くん。この雪の中で演技するみんなに比べたらね。」

 「大神はん、そらうちの脚本に対するイヤミでっか?」

 由里の横に冷ややかな目で大神を見つめる紅蘭、”雪女伝説”には彼女の方があっていたのかも、といわんばかりの。

 「そ、そうじゃないよ紅蘭。ただ、軽いけどほんとに吹雪が吹いてるんだもの、あれも紅蘭の発明かい?」

 そう聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに得意満面の紅蘭。

 「待ってました。(本当に言うから)これぞうちの作り出した特大扇風機、その名も蒸気扇風機”おーさぶこさぶくん”零号や。」

 「な、何だか寒そうな名前ね。」

 「由里はん、本来夏用のもんやさかい、冬に使うたら寒そうやないねん、現に寒いねん。」

 (そんなもの使うなよ、カンナだってまいるよ、きっと。沖縄生まれなのに寒さにも慣れてないだろうに。)

 と、口に出したいのは山々の大神だが、そこまでは言えない。

 「じゃあ、私は仕込みに戻るから紅蘭後は任せたわよ。」

 「まかしとき、機械類はうち一人でも充分や。」

 「…あの、仕込みって?」

 「そら後になったらわかるよってに。ほら、大神はん。もうすぐさくらはんの出番や。」

 「ふう、山菜を取りに来ただけでこんな目に遭うとはな、ついてないもんだ。」

 (かぁ〜っ、紅蘭の奴、演出とかいって本物の雪で吹雪起こしてどうすんだよ。舞台の上のモンの身にもなってみろよ。)

 役者にとっては至極評判の悪い吹雪の演出、しかし当の発案者は上機嫌である。役者と演出家の確執あってこそいい舞台ができると言わんばかりに。