仮想外伝4幕、帝劇如月野外公演、後編5



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投稿者: Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/05 15:00:10

In Reply to: 仮想外伝4幕、帝劇如月野外公演、後編4

posted by Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/05 14:58:46

 「これにて帝国歌劇団二月特別公演”雪女伝説”を終了させていただきます。長らくの御静観、誠に有り難うございました。些細ではありますが、劇中の鍋料理を用意いたしました。無料サービスですので皆様お誘い合わせの上、仮設売店横までお越し下さい。」

 「ああ、これか。さっきの”仕込み”は。」

 「そうですよ、大神さん。」

 「じゃあそっちを手伝うか、かすみくん。」

 「その必要はありませんよ。花組の皆さんが給仕していますから。私達は舞台の後片付けよ。さあ紅蘭。」

 「機械はうちがやらなあかんからここにおるけどな。」

 その通り、仮設売店で椿が特別公演特製パンフレットやポスター等を売り出している(このためカメラマン(風組隊員)が忙しく動き回り花やしき地下の印刷機がフル回転したそうな。)横で、さくら、カンナ、すみれが配膳していた。なお、その奥ではマリアが鍋をかき混ぜてアイリスが邪魔、もとい手伝いで鍋を見ていた。

 

 舞台も片付いて大帝国劇場楽屋。打ち上げの真っ最中だった。

 「よかったよ、みんな。」

 「大神さん、その、あたしの雪女、どうでした?」

 「恐かった。と、言うのはちょっと本気。それだけ上手かったもの。でもきれいだった、さくらくん。」

 「ホーッホッホッホ。粗野でお下品なさくらさんにはお似合いでしたわ、物の怪役。で、少尉、わたくしの娘役はどうでした?」

 まだ白酒に手を付けていないすみれが割ってはいる。

 「うん、地が出てた、というか、はまってたよ。すみれくん用の役だったよ。」

 「ホッホッホ、そうでしょうそうでしょう。どんな役でもわたくしが演じればわたくしの役になってしまいますのよ、ああ人も羨むこの演技力、カンナさんにも分けてあげたいわ。」

 ちょっと飲んでいたのかも知れない。

 「おいこらすみれ、調子に乗って何いいやがんだ。あたいだってちゃんと演ったと思ってんだぜ、なぁ、隊長?」

 「う、うん。実際いそうな木こりだったけど、猟師かもね。」

 「はあ?訳わかんねえな、まあいいや。隊長もどんどん食えよ。」

 「あ、ああ。」

 その大神の横(しっかりいい位置を確保している)に座っているアイリスは不満たらたらだった。

 「ねえ紅蘭、アイリスも出たかったよ〜、ねえねえ今度は”とくべつこうえん”に出してよ。」

 「わかったわかったアイリス、次こないな事あったらアイリスにもええ役やるよってに。」

 「わーい、次はアイリスが主役だ。わーい、わーい。」

 「誰もそこまで言うてへんがな。」

 「ふふ、紅蘭。これは本当にアイリスを主役にしないと収まりがつきそうにないわね。」

 「ほんな〜、あやめはん。次はうちが主役の脚本考えとったのに。」

 (いきなりの脚本で自分が主役、と言うのはあさましかったんだな。)

 大恐竜島(=コント)しか主役をしていないのもアイリスの不満の背景か。

 「でもお客様の反応はどうだったのかしら、寒い中で見て下さったのに。」

 「大丈夫ですよ、マリアさん。マリアさんと私が仕込んだ鍋を食べていたお客様の顔、満面の笑みだったじゃない。」

 「それは食べているときだけだったら?由里。」

 「かすみさん、マリアさん心配性なんですか?」

 「椿は余計な心配をしなくていいわよ。ただせ責任感があるだけよ。」

 帝劇三人娘やあやめも打ち上げの席に参加していた。和気藹々、一人のむさ苦しい男をを除いては華やかな宴会である。宴はいつ果てるともなく続き、いつしか翌日。天気も昨日までとは打って変わって晴れ渡っていた。もうすぐ降り積もった雪も溶けることだろう。

 

 「新聞でーす。毎朝ご苦労様。」

 「この雪の中、そちらもご苦労様です。」

 新聞配達の青年から新聞を受け取るのは毎朝玄関を掃き清めているかすみの日課。そのときほのかに紅潮した顔を見せる青年の感情にまでは、かすみは気を配ってないようだが。

 帝都日報に目を落とすと、かすみの顔にも笑みが浮かんできた。

〔 帝都日報−1面

浅草花やしきにて帝国歌劇団特別公演「雪女伝説」一日限りの公演、大盛況。

 先日の大雪の中、帝国歌劇団(支配人:米田一基氏)花組が浅草花やしきにて特別公演「雪女伝説」(脚本・演出、李紅蘭:花組女優)を開演。大雪にも関わらず銀座・大帝国劇場に本公演を観覧に来た来場者への配慮であったがこれが大盛況に終わる。公演終了後には劇中で作られた鍋が観客にも振る舞われ、売店でもこの日限りの特別商品が多数陳列された。観客の声、

 「雪で休演と思っていたらこんなものを見せて貰えるなんて感激。」

 「李紅蘭嬢の脚本、演出に満足。帝劇の役者はこういう事もできるのか。」

 「劇で作られた鍋が堪能できて嬉しい。」

 「特別公演の限定商品が良かった。」

 「一回限りなんてもったいない」

〕 

その後、帝劇に対して特別公演の再演申し出があったが、一回限りと言うことで要望者の意見が受け容れられることはなかった。一説には出演者のさくら・すみれ・カンナが風邪で寝込んだ為とも囁かれている。

 

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