仮想外伝4幕、帝劇如月野外公演、後編 2



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投稿者: Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/05 14:39:48

In Reply to: 仮想外伝4幕、帝劇如月野外公演、後編

posted by Rudolf @ 202.250.122.225 on 98/3/05 14:37:48

 「おお、一軒の家がある。仕方ない、今夜は一夜の宿を貸してもらおう。」

 ナレーション:「カンナの目前には一軒の家の明かりが煌々と、いや、うっすらと映っていた。或いはカンナの目にだけは煌々とした照明に見えたのかも知れない。」

 カンナは玄関戸まで辿り着くとどんどんと戸を叩き、中の住人を呼び寄せた。住人もそれに応えて戸口を開ける。見れば年頃、そう、16,7のうら若き乙女(さくら)ではないか。

 ナレーション:「白い着物に身を包んではいるが、どうも薄い。この寒い中でよく耐えられるものだ。」

 「すまないが、この雪で往生してな、一夜の宿をお借りしたい。なぁに、戸口でもいいんだが。」

 「どうぞ、中にお入り下さい。ちょうど温かい鍋も煮えておりますから。」

 か細い声でさくらはカンナを招き入れた。

 ナレーション:「この時、カンナには知る由もなかった。自分を襲う、今宵の悲劇を。外の吹雪は激しさを一層増していた。」

 「さあ転換や、今度は家の中のセットや。いくでー、」

 そういって紅蘭が力一杯紐を引くと舞台がくるっと回転した。今度は家のセットと言うことで屋根もあり、おーさぶこさぶくんの回転も止められた。

 

 「ふあ〜あ、つまんないの、アイリスも舞台出たい出たい。」

 「ダメだよアイリス、今日のアイリスは裏方なんだからね。」

 「だってだって。退屈なんだもん。」

 「アイリス、無理を言っては駄目よ。じゃあ、あの扇風機の前で飛んでいく役でいい?」

 「え、そんなのやだ。」

 「じゃあ由里とマリアさんのお手伝いを御願い。舞台裏は紅蘭と大神さんとわたしでやるから。」

 「はぁい。」

 かすみの支持に渋々ながら従ってマリア達の作業場、アイリスの向かう先からして隣のアトラクション小屋(今日は休園中)にいるようだ。

 「かすみくん、マリアと由里くんは何をしているんだい?」

 「ふふ、お客様へのサービスですよ。」

 その言葉だけでは大神の疑問の解消には微々たる薬物しか投与され得なかった。だが公演も終わる頃にははっきりするだろう、と信じて大神は舞台裏の作業に取りかかる。その間にも舞台上では第2景、家の中が始まっていた。

 「ふう、地獄に仏とはこの事だ。恩に着るよ、娘さん。」

 「どういたしまして。どうぞ。」

 そういって差し出された鍋には山海の珍味の寄せ鍋。これが美味しいらしく、いや、カンナにとっては至極当然の如く、あっさり平らげた。

 ところで囲炉裏も鍋も火も全て本物。屋外ならではの演出であろう。

 「外なら火を使っても大事にはならないしね、この辺は考えたんだね、紅蘭。」

 「深おつっこまんといてんか、大神はん。うちには前科もありますやろ。」

 それが11月公演「つばさ」の事であることは大神にもすぐに分かった。あのとき紅蘭は実物の戦闘機を舞台に持ち込んで模擬弾ではなく実弾を装填していたのである。

 「あれは反省しとるさかい、もう言わんといてんか、舞台に集中しまひょ。」

 「そうだね、俺ももう忘れるよ。」

 舞台ではカンナお得意の大食いショーの様相を呈していた。

 「うまいなあ、娘さん。もう一杯頂こう。」

 「はい、」

 といってカンナから茶碗を取って鍋を入れようとしたとき、

 「すまない、まだ名前を知らなかったな、俺はカンナ、あんたは?」

 直後さくらの手から柄杓がこぼれ落ちた。カンナは気付かない演技をしているが、明らか動揺である。

 「ど、どうしたんだ、娘さん」

 「さくら、真宮寺さくらです。」

 「あ、ああ、そうか。さくらいい名前だな、って、どっかで聞いた気も、」