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かとおおお @ 202.228.225.69 on 97/12/16 13:41:12
ここは日本橋。帝都一のゼネコン「テクノクラート・クロノス」の本社ビル。その役員用会議室にて。
営業部長の青木瀬津名がいう。
「社長! この不況のさなか、わが社の業績も急速に悪化しています。このままではこの
年の瀬を乗り切れません!」
土木部長の白銀野良切も同意する。
「そうだそうだ! 帝都タワーの建設も、雷門の建て替えも工事が途中で止まっちまってるし、なにより主力商品の万能型作業ロボット『脇侍くん』の注文が全然来ねえ」
反対するのは社長秘書の紅野魅力である。
「ちょっと、あんたたち。それって社長の責任じゃないでしょ。あんたたちにも責任のあることじゃなくって? ねえ、社長」
社長の天海は不敵に笑いながら答えた。
「ふっふっふ。もうすでに手は打っておるわ。魅力よ、又丹どのをこれへ……」
入って来たのは謎の男、葵又丹である。
「皆の者、わが社の将来は又丹どのの計画にかかっておる。わしはこれから神崎重工の忘年会に出席せねばならんから、話は直接又丹どのから聞くように。では、頼みましたぞ!」「………………」
極端に無口な又丹は、いきなりジェスチャー・ゲームを始めた!
「えっ!?」
「なに、あれ? あ……水道の蛇口? ひねって……わかった! 水を汲んでるんだ」
「今度はマッチ? 火をつけて……拍子木……火の用心! え、違う?」
「火をつけるでしょ。細長いの、たくさん……あ、たき火ね。その上にお鍋を? お湯を沸かすんだわ!」
「それは、置いといて? 今度は……何だ、あの手つき?」
「お米をといてるんじゃない? えっ、卓球? ああ、ピンポン…当たりね!」
「……たき火の上に鍋、その上に米?」
「アチチッ、て火傷? なかなか芸が細かいわね……わかった、湯気ね」
「蒸し米を作るんだな……それも置いといて?」
「次はなあに? 重くて、大きいのを持って来て……」
ここで又丹は両手を振り上げ、裂帛の気合を発した!
「ハーーーーーッ!!」
ペッタン
ペッタン
ペッタン
「わかった!! おもちつき!!」
ピンポンピンポンピンポーン!
かくして、『脇侍くん』を改造した自動もちつきロボット『もちつきくん1号』が発売された。「テクノクラート・クロノス」の社運を賭けたこのロボットは、さいわい爆発的な人気を呼び、学校や町内会のもちつき大会に引っ張りだこ。又丹たち4人は、デモに納品にと各地をかけめぐる日が続いた。
「では、これより『もちつきくん1号』の実演を行いまーす。おもちつきで一番大事なのは餅の手返しです。みなさん、又丹さんの手つきをよく見て勉強してくださーい」
ロボットの動きに合わせて一心不乱に餅をひっくりかえす又丹……。
「あの男、ただものではないと思っていたが……」
「まさか、餅屋の若大将だとは……」
「粋でいなせな兄さんだねえ……」
ねじりはちまきをキリリと締めた又丹の額に汗が浮かぶ。
帝都は今日も日本晴れ。穏やかな年の瀬になりそうだ……。
<完>
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