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VR @ 202.237.42.72 on 97/11/28 18:01:30
In Reply to: ハードボイルド大戦(長文)/第四章
posted by VR @ 202.237.42.72 on 97/11/28 17:59:05
「はん……そりゃ連中が怒る訳だ……。……待てよ。よくも
そう簡単に、設計図なんて代物を処分できたな?ヤツらだって
馬鹿じゃないだろ。警備員はチェスが趣味なのか?」
「……機械を動かせるのは、私だけですから……。」
成る程。こりゃ連中が大馬鹿だったらしい。彼女しか
動かせないってことは、脅威って事じゃねえか。彼女がその気に
なれば、そこの連中を皆殺しにだってできた筈だ。……つまり、
今、俺たちを追って来ているのは……。
「軍隊かよ……!」
なんてこった……。俺は天を仰いだ。呑気に浮かんでいる
お月様が羨ましいぜ。
「ご免なさい!もっと早く、言うべきだったんですけど……!」
「お嬢さん。俺たちが生きて帰れる確率は、ベーコン・エッグを
ターンする時に破れる確率より、遥かに高いぜ。こいつは
冗談抜きで地獄行きかもな。……今、ちょっと後悔してる。」
「……本当に、ご免なさい……あなたの、命まで……!」
……少女の涙には弱い。この子がその施設とやらで受けてきた
仕打ちは、どれだけ酷いものだったのだろう。そんな
サディスティックな連中に引き渡したんじゃ、こっちの
目覚めが悪過ぎる。
「……勘違いするなよ。後悔してるのは……」
俺は彼女の頭を撫でた。
「ベーコン・エッグなんて言わなきゃよかった、って事さ。
晩メシを食ってない事、思い出しちまったぜ。」
俺は傷口を抑えて立ち上がると、周囲に気配を凝らした。
完全に、囲まれているな……。
明冶二十六年式回転装弾銃には、もう弾丸は残っちゃいない。
ハッタリ程度にしか使えないな。
「どうしました、探偵さん?もう弾切れですか?」
前言撤回。こいつの価値は銀玉鉄砲以下になった。
畜生、ここまでか……。いや、彼女だけでも何とか
逃す事が出来れば……。
「ああ、残念ながら弾切れだよ。降参、降参。……質より
量ってのは、うまい事言ったもんだ。」
「動かないで下さいよ。時間を稼いでも無駄です。せめて
彼女だけでも、なんて考えてるんじゃあないでしょうね?
この包囲からは逃れられませんよ!」
「出来たらどうする?」
「……不可能です。」
「賭けようか?もし出来たら、今日の晩メシは貴様のおごりだ。」
その瞬間、辺りに銃声が轟き、周囲の男たちが次々と
地面に倒れ伏した。この銃声は、間違いない。
「動かないで!!私の方が早いわよ!!」
その忠告を聞かなかった馬鹿野郎共は、懐に手をいれたままの
格好で地面に熱いキスをする羽目になった。案外、懐の中味は
薔薇の花束だったのかもな。
「遅かったじゃないか。」
「……ビスを一つ、探していたのよ。」
マリアはちらりと俺に視線を向けると、軽くウインクをした。
既に残っているのは、先程のリーダーらしき男のみとなっている。
「お目当てが見つかったら全員を引き上げさせるなんて、
褒められた手際じゃないわね。一箇所に集まるのが
ご趣味かしら?黒アリさん。」
「き、貴様!!」
エンフィールド・改が火を噴くと、男は俺たちとは
別の世界の住人になった。
「賭けは俺の勝ちだな。約束通り晩メシをおごって
貰いたいが、貴様の顔を見ていると食欲が失せる。今回の
賭けはチャラにしてやるよ。」
先刻から俺にしがみついていた少女は、より強く俺の
コートの袖にすがりついてきた。
「……ああ、ご免なさい、ご免なさい……!!」
緊張の糸が切れたのか、押し黙っていた少女はわっと
泣き崩れる。……君は、何も悪くない。少女を泣かせる奴が
悪人だと、探偵小説でも相場が決まっている。だから、
俺の言葉にわずかでも神様が耳を傾けてくれる事を願って、
「……地獄に堕ちろ。」
男の死体を一瞥し、俺は低くつぶやいた。
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