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VR @ 202.237.42.72 on 97/11/28 18:16:06
In Reply to: ハードボイルド大戦(長文)/第六章
posted by VR @ 202.237.42.72 on 97/11/28 18:13:08
「君からのお許しが出ても、天使の髪を切ったんじゃあ
俺は地獄行きかもな。」
「あっ、大神さんがお切りになるんですの?」
不安そうな、と言うよりは意外といった表情で、彼女は
まじまじと俺を見つめた。
「この職業に就くまでに、気の遠くなるほど転職したからね。
舞台俳優から海軍一個艦隊の指揮まで、一応何でも出来る。」
ハサミが小気味よい音を立てるが、俺は言いようのない
罪悪感に包まれるばかりだ。マリアに銃口を向けられる
方がまだマシかもな。
「探偵さんは、皆さん幅広い技術をお持ちなのですか?」
「いや、俺みたいな人間は稀だよ。おかしいかい?」
「……いいえ、羨ましいですわ。私は、何も出来ません
から……。」
一瞬、少女の顔が暗くなる。
「……そんな事はないさ。君にだって、出来ることは
沢山ある。まず一つ、君の笑顔を見てると楽しいよ。
こっちまで楽しくなる。……君にしか出来ない事さ。」
「……本当ですか?」
「ああ、もちろん。マリアだって、今日みたいに笑顔を
見せる事は珍しいんだ。君のお陰だよ。もっとも、俺が
君の前でニコニコしているから、妬いているかもしれない
がね。今にその扉を開けて、怒鳴り込んで……。」
「大神さん、貰ってきましたよー。」
「ほら来た!」
「あはははは……!」
「はは、マリア、お帰り!凄いタイミングだよ、ははは!」
「な、何ですか大神さん?何かおかしい事でも?」
「い、いや、何でもないんだ。……ははは!」
「もう、何ですか?ねえ、すみれさん、何なの?」
「いえ、何でもありません。あはは……!」
マリアは何がおかしいのか理解できず、少し小さめの服を幾つか
抱えたまま扉の前に立っている。俺は、少女が笑ってくれたのが
嬉しくて、暫く笑いが止まらなかった。
「……いやー、笑った笑った。素人名人会でファンファーレ
ものだよ。……んで?なるべく彼女の事はバラさなかった
だろうな?」
「もちろん。近所のバザー・セールへの寄付ってことで、
いらない服を譲ってもらいました。」
「ん、妥当な所だな。『オシャレに目覚めました』とか
言っても、誰も信用しないだろうし。」
「どうせ私はセンスがないですよ!」
俺はひょいひょいと服を摘み上げて、彼女に似合い
そうなものを探した。
「これなんかどうだ?白地にワンポイントが入っただけ
だが、立派なモガになれるぜ。」
「はい。素敵な服ですわ。」
「あと、マリア。この酒くさいチャイナ・ドレスは返品
してこい。」
「ドクター、言ってましたよ。大神さんには渡すなって。
変な事に使うから、だって。」
「……あのヤブ医者め。」
まるで別人の様に……とまではいかないが、まあ当面は
これで大丈夫だろう。少女はマリアの姿見の前で、
自分の姿をまじまじと見つめていた。
「で?これから先は考えているんですか?」
「……マリア。これを機会に籍を入れておこう。」
「!!……なな、何を言ってるんですか!?」
色白のマリアは、あっという間に紅潮した。なかなか
可愛らしい。そういう表情も見てみたいと思ってたんだ。
「二人の子供って事にしよう。暫くはそれで誤魔化せる。」
「む、無理ですよ!だって彼女、……何歳だっけ?
すみれさん?」
「十五です。」
先ほどの服が気にいったらしく、少女は鏡に目を向けた
まま答えた。
「大神さんが五つの時の子供になっちゃいますよ!」
「お医者さんごっこで、間違いが起こり……。」
「無理ですってば!」
「んー、じゃあ、妹って事にするか。」
マリアはまだ顔が上気している。これは脈ありか?
なんて冗談は置いといて……。
「よし、君は今日から俺の妹として生活するんだ。
いいかい?」
「はい、お兄様、お姉様!」
「お姉様って……私も!?ちょっと、大神さん!!」
「人類みな兄弟。」
「もう、いい加減なんだから!」
ここは大帝国ハイツ。今日から、少し幼い住人が増えた。
何か厄介事を抱えこんだら、最上階の『大神一郎探偵事務所』
を尋ねてきな。二十四時間、年中無休。色気のない助手の煎れた
ロシアン・ティーと、笑顔の素敵な天使がお出迎えして差し上げるぜ。
――― 完 ―――
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