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投稿者:
神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:37:47
In Reply to: ハロウィン気味?大戦_神崎すみれ編 其の2(長文)
posted by 神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:36:11
雨上がりの水田とは、収穫直前ともなれば稲穂に付いた水滴が日の光を
反射してまるで黄金の実の様に見え、幻想的な風景を作るものだ。
「わあ、すごい……」
あたり一面に広がる黄金色の絨毯に感嘆の声を上げる少女がいた。
その少女は、白い帽子にピンクのドレスといったおよそこの田舎には
似つかわしくない格好をしていた。
年の頃にして11、2歳位であろうこの少女は目の前の壮大な風景にいつも
は細いその目を大きく見開き、始めてみる光景に我を忘れて見入っていた。
その時突然、何の前触れもなく強い風が少女の周りを吹き抜け、その少女の
白い帽子を大空へ舞い上がらせた。
「きゃ!」
少女は、突然の風のいたずらに驚いて小さく声を上げ、帽子が飛ばされたのに
気付くとあわてて空高く飛んでいく帽子の後を追いかけて行った。
だが無情にも、少女の白い帽子は雑木林の方へと飛んでいき一本の高い木の
木の枝にひっかかってしまった。
「あ〜あ、おじいさまから頂いた帽子が………」
少女は、よほどあの帽子がお気に入りだったのか残念そうに木にひっかかった
白い帽子をじっと見つめていた。
「俺が取ってきてやるよ!」
不意に声を掛けられ、驚いた少女は声のした方へ振り向いた。
「だ、誰?」
少女が振り向いた先には、少女より少し上くらいの年齢の少年が立っていた。
少年は、少女の問いに答えずに帽子のひっかかった木の根元に駆け寄ると
そのまま慣れた手つきでスルスルと木をよじ登っていった。
少女が見ている目の前でアッという間に帽子の元にたどり着いた少年は
帽子を手に取ると、何を思ったのか突然高い木の木の枝から飛び降りた。
「あぶない!!」
少女は、突然少年が飛び降りたのに驚き、そして少年が地面に叩き付けられる
と思った少女は怖くなって思わず両手で顔を覆い隠した。
「はい、どうぞ」
少女が恐る恐るゆっくりと両手を顔からはなすと、少年がそう言って白い
帽子を笑顔で渡してくれた。
「あ、ありがと…う」
少女は、少しとまどいながらも少年から白い帽子を受け取るとお礼を言った。
少年は、少女が白い帽子をかぶるのを見てから突然口を開いた。
「お前、この辺で見ない顔だな、高そうな服着てるし……」
「それに、そんな綺麗な帽子生まれて初めてみたよ」
「お金持ちのお嬢様なんだ………」
「ところで、お前こんな所で何してたんだ?」
「あっ!!さっき向こうでぬかるみにはまって立ち往生していた蒸気自動車
は、もしかしてお前の家の車か?」
「そうだったら、今度俺も乗せてくれよ!一度乗ってみたかったんだ!」
「…………あっ!そういえばお前の名前、なんていうの?」
少年に一気にまくしたてられ、少女は一瞬ひるんだが、深く呼吸をしてから
毅然とした態度でこう答えた。
「名前も名乗らずにレディーにあれこれ聞くなんて失礼ですわよ」
少年は、少女の思わぬ返事に驚き、そして突然笑いだしてこう答えた。
「ははは……こいつは、一本取られたな!!」
こうして二人は出会った。
すっかり紅く染まった山々に囲まれた村のはずれに、大きさはそれ程では
ないにしろ細部までしっかりと作り込まれた洋風建築の屋敷が有った。
コツンッ
屋敷の二階の窓に何かがあたる音がした。
「おーい、俺だよ〜出て来いよ〜」
少年の声が下の方から聞こえてくる。
部屋の中で読書にふけっていた少女は少年のその声を聞き、本を閉じて
窓に駆け寄ると、窓を開けた。開け放った窓から冷たい風が吹き込んで来たが
少女は構わず身を乗り出して下を見た。
「おっす!」
眼下の少年はそう言って手を上げた。
その様子を確認した少女は窓を締めて、部屋から駆け出して行った。
少年は、少女と出会ってからというものほとんど毎日の様に少女の住んでいる
屋敷を尋ねて来た。
最初、少女は少年の事を全く相手にしなかった。
しかし、外を歩けば華族のご令嬢として一般の人々から遠巻きにされ、通って
いる学校―女子学習院では新興華族の娘という理由から蔑まれ、さらには屋敷に
戻っても多忙を極める両親とは会話を交わすどころか会う事も滅多にないという
状況で一人寂しい想いをしていた少女がごく当たり前の様に普通に接してくれて
しかも、自分に対して興味を持ってくれる少年に次第に惹かれ、いつしか少年が
尋ねて来るのを心待ちにする様になるのは当然と言えば当然の成り行きだった。
しばらくして屋敷の裏口から少女が息を切らせながら走って来た。
「おいおい、なにも全力で走って来る事もないのに……」
少年がそう言うと、少女は乱れた息を整えてからこう言った。
「だって、昨日みたいにどこかに隠れて居なくなると思ったから…」
少年は昨日、少女が屋敷から出てくるまでの間にちょっとした悪戯のつもりで
物陰に身を隠した事を思い出してこう言った。
「昨日の事はごめんよ……もう二度とあんな事はしないよ………」
少年は少女に背を向けてさらに言葉を続けた。
「お前のあんな寂しそうな顔はもう見たくないから………」
その言葉を聞いた少女は、昨日の自分の姿を思いだしなんだか恥ずかしく
なったのか、顔をわずかに赤らめながらも毅然とした態度で言った。
「ふん、分かればよろしいですわ!!」
……十数分後、二人は見晴らしの良い小高い丘の上に立っていた。
「…それにしても凄いお屋敷だなぁ、あれで別荘だなんて信じられないや」
少年は、眼下に見える村の中で一際目立つ少女の住んでいる屋敷を見ながら
しみじみと言った。
「…別荘じゃなければ良かったのに…神奈川の屋敷の建て替えが終わったら
帰らないといけないから………」
そう少女が言うと二人の間に重苦しい雰囲気に包まれた。
少年は、重苦しい雰囲気をなんとかしようと少女を励ます様に言った。
「でもさ、向こうに帰れば通ってる学校の友達とまた会えるじゃないか!」
「それに、もう二度とここに来れないわけじゃないんだろ?」
少女は力無く呟いた。
「学校に…友達なんていないですわ……………」
二人の間はさらに重苦しい雰囲気に包まれた。
少年はまずい事を言ったなと後悔しつつ、どうしたものかと空を見上げて
から視線を少女に向けた。
見れば、少女は吹き付ける秋の冷たい風に身を震わせていた。
その姿を見た少年は、おもむろに少女の後ろに回り込むとそっと包み込む様に
優しく少女を抱きかかえた。
「な、なにするの!?」
唐突な少年の行動に驚いた少女は思わずそう言った。
「ほら、こうすれば寒くないだろ?」
少年のその言葉に、やがて少女はゆっくりと目を瞑って答えた。
「……うん………温っかい…」
その時少女が感じた温もりは少年の体温だけでなく、生まれて初めて感じる
不思議な胸の高鳴りによるものも含まれていた。
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