ハロウィン気味?大戦_神崎すみれ編 其の5(長文)



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投稿者: 神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:41:14

In Reply to: ハロウィン気味?大戦_神崎すみれ編 其の4(長文)

posted by 神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:39:21


 少女は、山林の中を慣れない足つきで苦労しながらも、少年に付き添って
歩いていた。

「それにしても、もう少しまともな道はないんですの?」

 二人が歩いていたのは、背丈ほども有る深い草むらの中を細く抜けている
獣道であった。

「何言ってるんだよ、充分まともな道じゃないか」

 少年がそう答えた次の瞬間、

「きゃああぁぁぁ!!!」

 という、少女の悲鳴が辺りに響いた。

 その悲鳴に驚いた少年があわてて振り返って見ると、少女は立ち止まって
小さく震えていた。

「いやああぁぁ!!く、くくクモ〜〜!!!!」

 よく見ると、少女の身体には蜘蛛の巣が絡みついていた。

 少年は、少女の身体に絡みついたクモの巣を払いのけると少女に言った。

「何だよ、クモなんて居ないじゃないか、蜘蛛の巣だけでそんなに怖がるなよ」

 少年はそう言ったものの、あんまり怖がるので少女の顔を覗き込んでみると
少女は、うっすらと涙を浮かべていた。

 少年は、一瞬目を奪われた。涙を浮かべる少女の顔がこの世の物とは
思えないほど綺麗なものに見えたからだった。

 すぐに気を取り直した少年は、少女の涙を指でそっと拭ってやると、少女を
抱きしめた。

「あ……」

 少女は小さく声を上げた。

 正面から抱きしめる格好となった為に、少女の成長を始めて間のない柔らかな
胸の膨らみを感じた少年は一瞬ドキッとしたが、気を取り直して言った。

「そんなに怖がるなよ、クモなんか出てきても俺が追い払ってやるから」

 少年のその言葉に安心したのか、少女の身体の震えは止まっていた。

 そして少女は、小さな声で言った。

「……うん」

 少女は再び感じるあの温もりに、先程のクモに対する恐怖心などすっかり
忘れていた。





 二人はもうかなりの時間、道無き道を歩いていた。

 少女は、もうどんな悪路も苦にならなかった。いや、むしろ楽しんでさえ
いた。
 それは、未だ見たことのないキツネを見せてもらえるという期待感のせい
ではなく、今まで心の中で少年に対して漠然と想っていた事柄に改めて
気付き、そしてその想いを素直に受け入れたからであった。

 (少しでも長くこの人と一緒に居たい………)

 少女は少年と一緒に森の中を歩いている、この事が嬉しくてたまらなかった。


「ほら、あそこにいる!」

 少年が指で指し示した方を見ると、一匹のキツネが走り回っていた。

「あのしっぽの大きい犬みたいなのがそうなの?」

 少女が始めて見るキツネを目で追いながら少年に聞いた。

「そうだよ!…ほら、お前にそっくりな顔してるだろ?」

 少年は、走り回るキツネを目で追っている少女の横顔を見ながら答えた。

「え〜、そんなに似てないですわよ」

 少女は、少々不満そうに少年にそう言った。

「何言ってるんだ、そっくりじゃないか目が細い所や可愛い所なんか…」

 少年は、思わず出てしまった言葉が恥ずかしかったのか途中で黙り込んで
しまった。

 少女は、正直な話『可愛い』などという言葉はうんざりする程言われてきた。
但しそれは、少女に向けてではなく、日本有数の大財閥のご令嬢に向けたもの
であった。しかし、今の言葉は少女自身に純粋に向けられたものであり、何よ
りも目の前の少年が言った言葉だった為、少女はとても嬉しかった。

 少女は、少年の言葉にどう反応していいか分からず、うつむくしかなかった。

 二人が、お互いに気恥ずかしくて黙り込んでいる内にキツネはどこかに
行ってしまった。

 そして、どこかに行ったキツネの代わりとばかりに雨がシトシトと降り出して
きた。先程まで晴れていた天気がウソの様であり、それはまさしく女心の様な
移り身の早さだった。