ハロウィン気味?大戦_神崎すみれ編 其の7(長文)



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投稿者: 神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:44:08

In Reply to: ハロウィン気味?大戦_神崎すみれ編 其の6(長文)

posted by 神崎 操 @ pppa818.pppp.ap.so-net.or.jp on 97/11/30 02:42:44


 少女は、少年の帰ってくるのを待ち続けた。もう何時間過ぎただろうか……
先程までの嵐はすっかり衰えて小雨になってから久しかった。
 少女は、すっかり燃え尽きた薪から上がる細い煙をぼんやりと眺めていた。

 さらに数時間が流れた頃、不意に山小屋の扉が開いた。

 少女は、少年が帰ってきたと思い、すぐに扉の方に顔を向けた。

 しかしそこに立っていたのは、50代半ばの男性だった。そしてその男性は
そこにいた少女を見て驚いた様に言った。

「こんな所で誰か居る思うたら、お前さん最近ウチの孫息子と一緒に遊んどる
お嬢さんじゃないか?」

「はて?お嬢さんがここに居る言う事は、ウチの孫も来とるんかの?」

 どうやらこの男性は、少年の祖父らしかった。

 少女は少年のお爺さんに事情を説明した。

「どれ少し足を見せてみなさい」

 少年のお爺さんは、そう言うと少女の足の具合を確認した。

「…これは…ひどい…こんなに腫れておる…」

「早く医者に見せた方がええ…すぐに山を降りよう」

 結局少女は、少年のお爺さんにおぶさって山を降りる事になった。降りる
途中のお爺さんの話によれば、少年のお爺さんは別の狩猟場で猟をしており
少年とは、会わなかったらしい。

 少女を背負ったお爺さんが村の近くまで戻ってきた時、一人の村人が
走ってやって来た。

「おい!爺さん、どこに行ってたんだ!大変な事になっただぞ!」

 村人が少年のお爺さんにかなりあわてた様子で話しかけてきた。

「大変な事って一体何が起こったんじゃ?」

 少年のお爺さんの問いに村人が答えたその言葉は、少年のお爺さんにとって
そして、背負われていた少女にとっても信じられない、いや、信じたくない
ものだった。

「爺さん所のお孫さんが橋から落ちて行方が分からないだ」

 嵐の中急いでいた少年は、あの丸太の橋で足を滑らせ濁流に飲まれたのだった。


 その時、少女は村人が発した言葉をすぐには、理解出来なかった。

 そして少女が、その言葉の意味がどういう事であるかを拒絶しながらも答えを
導きだしてしまったその時……………少女の周囲の時間が凍り付いた。



(う…そ……………帰って………くるって………………)


 少女は、その後の事はほとんど何も憶えていなかった。


 只、憶えていたのは…


 目の前の棺にあの少年が横たわっている事実を受けいれる事が出来ずに
いつまでも泣き続けている自分の姿だけであった。







「……………ここは……」

 すみれがゆっくりと目を開くと、そこは自分の部屋だった。辺りは、既に
夜のとばりに包まれていた。

 その時、不意に声がした。

「やあ、気が付いたかい?」

 すみれが、声のした方に視線を向けると一人の男性が立っていた。

「少尉……」

 すみれにそう呼ばれた男性―大神一郎は、すみれが目覚めたのを確認すると
ゆっくりとすみれの方へ歩いて来て言った。

「すまない…すみれくん、勝手に部屋に入って来てしまって………みんなに
事情を聞いて心配だったから少し様子を見に来ただけなんだ」

「それじゃあ、俺は先にみんなの所へ行くよ」

 そう言って背を向けて立ち去ろうとした大神を見た時、すみれは何故か
どうしようもない焦燥感にかられ、思わず叫んでいた。

「待って!…行かないで!」

 驚いた大神が振り返りすみれを見ると、月の光に微かに照らし出された彼女の
顔は今にも消え入りそうな表情をしていた。

「お願い…もう…わたくしを置いて行ってしまわないで……」

 すみれは、力無くそう言葉を続けた。

 大神は、何故呼び止められたか良く分からなかったが、彼女がまるで
幼い子供の様に弱々しくそして何かに怯えているのに気付くと彼女を
落ちつかせようと思い彼女を両腕で包み込んだ。

「あ……」

 すみれは大神に抱きしめられ、あの時の温もりを再び感じた。それはかつて
すみれが、2度だけ感じた事の有る懐かしい温かさであった。

 そして、すみれの瞳からひとすじの涙が静かにこぼれ落ちた。

 大神は、ゆっくりとすみれから離れるとこう言った。

「じゃあ、いっしょに行こうか」

 大神の言葉にすみれは無言で頷いた。

 そして、すみれは突然何かを思いだした様に大神に言った。


「…ひとつ……言い忘れてましたわ……」


「なんだい…すみれくん?」


「……………お帰りなさい」


 そう言った彼女―神崎すみれの潤んだ瞳には

 帝國華撃団花組・隊長―大神一郎少尉と

 もう一人……………あの少年の姿が映っていた……