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投稿者:
VR @ 202.237.42.71 on 97/11/11 11:30:53
ハロウィン大戦『トリック・オア・トリート?』
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「さあさあ、いらっしゃーい!ハロウィンの特製
ブロマイド、いかがですかー!」
椿ちゃんはいつもより張り切っている。売店は、黒山の
人だかりだ。
「本来なら50銭のところを、おおまけにまけて70銭ですー!」
「高くなってるよ……。」
俺の突っ込みも、椿ちゃんには届かない。
「大神さん!そんな所に立ってないで、ちょっと手伝ってくださいよ!」
「はいはい。」
しかしハロウィン用の特別ブロマイドとはどんなものだろう。
カボチャの面などかぶっていては、誰が誰だか分からない。おそらく、
面を外した状態とか、カボチャのランプをかかえている、とかいった
ポーズなのだろう。
となどと思っていた俺の予想は、見事に裏切られた。
かぶってる。思いっきり、カボチャの面。
これじゃ、誰が誰だか……いや、小さなお化けはアイリス、
大きな方はカンナだろう。一応、個別への手がかりはあった。
さくらくんは、カボチャの面に黒いマント、右手には刀が
握られている。かなり、怖い。
長刀を構えたお化けは、間違いなくすみれくんだ。どこの
世界にそんなお化けがいるのだろう。
マリアは当然、銃。シャレにならないくらい怖い。
少しマントが焦げているのが紅蘭かな?これはかなり
ファン向けの判断材料だ。ははは。
って、そういう問題じゃないだろう!売れればいいのか、
椿ちゃん!?
「はい、大神さん。これにサインをお願いします!」
椿ちゃんに手渡されたマジック、そしてブロマイド。
何故、俺のサイン?……見ればそのブロマイドは、カボチャの
お化けが、二本の刀を携えたものであった。
無論俺はそんな写真など、撮った覚えはない。
「鬼だ……あんた、鬼だ……。」
そのつぶやきをかき消すように、
「さあさあ、今ならこのブロマイドに、大神さんのサインを!
この場で!いれますよー!!」
「きゃー!大神さんだ!」
「本物よー!きゃー!」
殺到するお客さんたち。俺も結構人気あるんだ。やっぱり、
ファンに触れる瞬間が一番嬉しいよね、この仕事。
って、俺の仕事はモギリだろうが!なんなんだ、このブロマイドは!
と思いつつ、仕事で培わたモギリ・スマイルが出てしまう今日このごろ。
一応、愛想よく握手する。
その時初めて俺は、自分がまだハロウィンのマントを付けたままでいる
ことに気がついた。ちょうど、ブロマイドの俺(?)が、面だけを外した
状態になる。当然、今、目の前にあるブロマイドと、俺に対する視線の
イメージは重なる。このブロマイドがインチキだなどという疑いは、
客の思考に組み込まれるはずもなかった。
「まさか、全て計算の上で……?」
俺はもう一度、椿ちゃんに視線を向けた。相変わらず、
ブロマイドの売買に余念がない。
人々に夢を与えているのか、インチキ商品で悪戯しているのか……?
「トリック・オア・トリート?……ねえ、椿ちゃん……?」
トリックとトリートはいつも紙一重。
力なくつぶやいた俺の言葉は、椿ちゃんには聞こえない。
高村椿。彼女は帝劇に舞い降りた天使なのか、遣わされた悪魔なのか。
「……多分、後者。」
大神の一人突っ込みも、売店のにぎわいの声にかき消されていった。
(終)
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