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勇者ああああ @ 210.156.162.137 on 97/8/08 08:43:36
In Reply to: 学園モノ 無間学園 1
posted by 勇者ああああ @ 210.156.162.137 on 97/8/08 08:41:51
教室から出た冬哉は、渡り廊下を走ってい
た。まとわりつくような生温い風が、吹き始
めている。
「やるだけは、やってみよう」
冬哉は、真っすぐに生徒会室には向かわな
ずに、剣道部の道場へと向かった。
「来ると思ってました、冬哉くん」
剣道部主将、上泉円香は、人気を払った道
場の中央に、正座をして待っていた。
「上泉先輩」
冬哉は、下手に着座すると、深々と頭を下
げた。
「話は聞きました」
円香は、凛とした表情を、やや崩して、柔
和な笑顔を見せた。
「噂だけだと、思ってました」
冬哉は、俯いたまま、そう呟いた。
「最初は、誰でもそう思うものです」
円香は、すっと立ち上がると、神棚に断り
を入れ、その下に掛けてある掛け軸をめくっ
た。
掛け軸の裏は、引き戸になっており、その
引き戸を開けると、中には幾つかの刀が安置
されていた。
「これがいいでしょう」
円香は、古びた刀を取り出すと、冬哉に差
し出した。
「竹俣兼光、二尺八寸です」
備前長船の名工、兼光の作で、雷神を斬っ
た、鉄砲ごと敵兵を斬り下したなどの、凄ま
じい逸話が残っており、上杉兼信、豊臣秀吉
と持ち主が変わったのだが、大阪城が陥落し
た際、浪人たちが持ち去ったらしく、かねて
より噂を聞いていた徳川家康が、黄金三百枚
を懸賞にして探索させたが、ついに出てこな
かったという、希代の名刀である。
「短い間でしたが、お世話になりました」
冬哉は、刀を押し戴くと、短く一礼し、道
場を後にした。
「ご武運を」
遠退いていく冬哉の足音を背中で聞きなが
ら、円香は、神棚に向かって祈りを捧げた。
それしか、彼女には、してやれることがな
かったのである。
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