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VR @ 202.237.42.71 on 97/11/11 13:15:54
In Reply to: ハロウィン大戦・由里編/前編(長文)
posted by VR @ 202.237.42.71 on 97/11/11 12:19:38
彼女にとって、自分が今、侵入行為を行っている事を
自覚する方が難しかった。あまりにもずさんな警備体制。
「(軍機密施設が聞いてあきれるわ……。)」
夜の闇は深く、ただ月の明りだけが、由里の行動の
刹那を拾いあげた。
しかし、いくら警備が手薄だとはいえ、深入りは禁物必要最小限の
行動、終了しだいすぐに脱出、が彼女のやり方である。そして、
彼女の目的を満たす存在は、すぐに現われた。
いかにも頼りなさそうな、周辺警備の隊員が一人、施設の周囲を
散策している。真面目に任務に励んでいるとは、到底思ない。そんな
彼の背後に廻ることは、由里にとって簡単すぎた。そして……。
「ひっ!」
「動かないで。もっとも、動いてあなたが死んだところで、
どうって事ないけどね。」
「なっ……誰だ!?」
「さあ?想像してみなさい。」
由里は、彼の喉元に、何かを強く押し付けた。それは、彼女が
手にしていた武器……トンファーの様に見えるそれは、不気味に
青白い光を放っている。
「……!霊式トンファー……ま、まさか貴様!榊原の……娘!?」
「ふーん、自分たちが見殺しにした人間でも、名前くらいは覚えてて
くれるんだ。」
穏やかにも取れる彼女の言動とは裏腹に、より強くトンファーが
押しあてられる。
「ぐっ!……何が……目的だ……?」
「分かってるでしょう。夢組よ。『幻武』のことを、教えなさい。」
……答えなければ殺す。その殺気を感じ取ったのか、男は
弱々しい声で話し始めた。
「……第二次降魔戦争の一件で、夢組も、帝都防衛の戦闘部隊として
再構成することが決定した。花組と同じ立場になるんだが……花組は……
だんだん軍部の言うことを聞かなくなってきやがった……。」
由里は無表情のまま、相変わらず男を睨みつけている。
「……そこで、だ。新たに結成され、軍部の思い通りに動かすことの
できる部隊として、夢組に白羽の矢、ってわけさ。幻武は、
その為に開発されている……。」
「戦闘部隊を作って……他国に戦争を仕掛けるつもり!?」
「へへ、さあな。……ぐうっ!?」
由里の力はより強くなり、男の喉元を押し潰さんばかりの
勢いだ。
「ぐっ!……ぐああっ……!!」
「ふざけないで!!帝都防衛以外に霊子甲冑を導入するなんて!
それは何の為?国の為だとでも言うの!?そんなもの、誰の
意思でもないわ……下らない軍国主義の産物よ!!」
しばらくの沈黙、そして由里は男の喉からトンファーをゆっくりと
離した。踵を返し、その場を立ち去ろうとする彼女に、男は続けた。
「だ、だがな!計画は、軍部の中で正式に動いているんだぜ!
犯罪でも、国家への反逆でもない!お前らに、止める権利などないんだ!」
由里は言葉に振り返り、男を見下ろした。その顔は、月の逆光となって
見えなかった。が、男には先ほどよりも強い殺気となって襲いかかり、
男の五体を萎縮させた。
「そうね。確かに、止める権利はないわ。今のはね。……でもね、
私たちは何時でも貴方たちを見ている。それだけは、忘れないことね!」
再び、男の体は怯えた犬の様にすくんだ。
そして彼女は、月明りだけがはっきりと浮かぶ闇へと、静かに
姿を消していった。
(続く)
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