小説「夜桜」3(長文)



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投稿者: みお @ max2-ppp9.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/24 07:17:50

In Reply to: 小説「夜桜」2(長文)

posted by みお @ max2-ppp9.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/24 07:16:48

 そのころ。上野から離れた銀座の帝劇は、消灯時間も過ぎ、暗く静まり返っていた。
 その中でただ一つ、明かりのともる部屋があった。二人の人影が見える。

「支配人。探さなくていいんですか?」
 あやめが緑茶を湯飲みに注ぎながら、米田に言った。
 一方の米田は顔色一つ変えず、窓から外を見ている。
「心配するこたぁねぇよ…たまにはハメをはずしたくもなるだろう」
「でも………」
 あやめは湯飲みを机上に静かに置いた。
『大神さん、何もかも上の空って感じでした』

 椿の言葉が耳に残っていた。
(それに消灯時間には帰るって言ったのに、戻って来ないなんて…大神くんらしくないわ……)

「あいつは…大神は……」
 米田は振り向いてあやめを見た。
「ああ見えて、中身はしっかりしている」
「ええ…………」
(大神くんを信じるしかないのね…)
 あやめは薄い霧の漂う外を見た。


「や、やめろ………」
 時を同じくして、大神は何かわからないものに飲まれながら、必死で抵抗していた。
 のどが熱い。何かが体の中から出ていこうとしているのを感じた。胸がどきどきする。
「お、俺が……いったい…何を……」
 強く目を閉じているのに、明るさが入り込んでくる。すさまじい光が大神を包んでいた。

『あんたは私の命令に逆らった!だから、許さない!!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 さっきよりも数段速い速度で、のどから何かが流れるように出ていくのを感じた。そして、光が消えたのがわかった。

「あ…ああ…………」
 目を開けようとしたが、瞼が重くてできない。瞼だけではない。全身が、少しも動かせないほどの疲労感に支配されていた。心臓の鼓動だけが、痛いほどに強く体中に響いてい。
る。
(何が起こったんだ………)

『あたし、無駄遣いしたくなかったのに!あんたのせいで、無駄にしちゃったじゃない!…霊力を』