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みお @ max2-ppp9.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/24 07:20:24
In Reply to: 小説「夜桜」4(長文)
posted by みお @ max2-ppp9.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/24 07:19:02
「ふう……………」
大神はゆっくり目を開けると、即座に桜の木に背を向けて歩き始めた。
(こんな時間、帝鉄が走ってるわけないじゃないか…何で俺は上野から銀座まで歩いて帰るはめになっているんだ?)
納得がいかない。でも、歩かないことには帝劇にたどり着けない。
「……疲れたなあ。明日が休演日でよかった」
妙にむなしかった。
(見回りもさぼったし。第一、何も言わずに出て来たし。みんな、怒ってるだろうな……支配人に、しぼられるかも……由里くんにだって、質問責めにあうだろうなあ……)
「…………いやだなあ」
誰もいない街中を歩くコート姿の大神には、妙な哀愁が漂っていた。
もうどれくらい歩いただろうか。ついに大神は見慣れた大通りまでたどり着いた。
「やっと着いた……」
目の前に、大帝国劇場がそびえ立っている。
(も、もう一歩も歩けないぞ……)
ふらつく足取りで、大神は寄りかかるようにしてドアを開けた。
「あ、あれ?鍵が……開いてる?」
(締め出しくらうと思ってたのに…)
「うっ!」
突如目に入ってきた光に、立ちすくむ。
(何で消灯時間すぎてるのに明かりが……)
「お帰りなさい、大神くん」
「え……………」
明かりに慣れてきた目は、あやめの姿をとらえていた。
「あやめさん!起きててくれたんですか?」
「心配してたんだから!椿が、大神くんの様子がおかしかったって言うから」
「は?」
(俺、椿ちゃんと話なんかしたかな……まあ、何で上野公園にいたかも覚えてなかったし)
「な、何だか迷惑をかけてしまったようで…すみません」
「もういいわ、無事に帰ってきてくれたのならそれで」
あやめは優しく微笑んだ。
(俺……帰ってきたんだ……)
ドサッ
「ちょ、ちょっと大神くん?」
「す〜………………」
「あら?寝ちゃったの?」
あやめの腕の中で、大神は軽い寝息をたてていた。
「何があったのかは知らないけれど…ご苦労様」
思わず苦笑いするあやめだった。
「…どうかしたんですか、あやめさん」
宿直室から出て来たあやめを、マリアが引き止めた。
「大神くん。疲れてるみたい。ぐっすりよ」
そう言って、くすっと笑う。
「じゃあ、隊長は帰って来たんですね?」
「ええ。さっきね。どうやらみんなに知らせないですんだわね」
「………よかったです」
「心配、かけちゃったかしら?」
「いいえ、そんなことはありません……お休みなさい」
「お休み、マリア」
帝劇にようやく、静かな夜の闇が訪れた。
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