ハロウィン大戦〜ジャック・オ・ランタンの思い出1



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投稿者: 編隊飛行(まだやってる?) @ ppp038.vit.or.jp on 97/11/22 07:05:32



〜トリック・オア・トリート〜
 〜お菓子をちょうだい。じゃなきゃいたずらしちゃうよ〜
    少女の声が心の中にこだまする。
      そう、あれは美しき思いで。
           〜二人だけの・・・・・。


       〜〜〜 序  章 〜〜〜


「トリック・オア・トリート!」

「ん?」

「トリック・オア・トリート!」

 秋の日の夕暮れ。街は夕日に真っ赤に染まり、闇の世界が出番を待って舞台袖
に待機している。帰り路を急ぐ私の前に、真っ白なマントにオレンジのカボチャ
のお面を付けた子供が手を差し出している。ちょうど角を曲がったところで、私
は一瞬ではあるがどきっとしていた。左手にはカボチャのランタン。背はかなり
低い。小学校の低学年というところか?お面の後ろからのぞくきれいな金髪。

 (あぁ、外国の子供か。どおりで・・・。)

「今日はハロウィンだったかな?お嬢ちゃん。」

「トリック・オア・トリート!」

「はいはい。ちょっと待ってね。」

 袂をさぐる。確か、姪の茜にせがまれて買ったキャラメルが2箱入っているは
ずだ。まだ食べたことがなかったので、自分の分も1箱買っておいたのだ。

(まぁ、茜から1粒もらえば充分だろう)

 キャラメルを1箱探し出すと、小さな手の上にそっと載せてあげる。

「いたずらはしないでおくれ。かわいいかぼちゃのお化けさん。」

「このお面とマントはね、本国のパパとママが送ってくれたの。このランタンは
 お兄ちゃんが今朝作ってくれたんだよ!」

嬉しそうにカボチャの妖精が私に語りかける。

「ありがとう。おじちゃん。」

 マントの裾を軽く両手で持ち上げ、心持ち膝を折って西洋風のお辞儀をする少
女は、カボチャのお面と相まってまるで童話の中からそのまま抜け出したカボチ
ャの妖精という風情であった。

「お〜い、アイリス〜!帰るよ〜!」

 向かいの歩道の方から、少女を呼ぶ声がする。
「は〜い!」
 と叫ぶと、少女は声の方へ向かって駆け出す。が、また途中で振り返ると

「ありがとう〜!おじちゃん!!」

 と私の方へ手を振った。
車道の向こうには、見慣れた帝劇のもぎりの制服を着た青年が立っている。

「あぁ、なるほど・・・」
帝劇の人気子役の顔を思い浮かべ、私はほくそ笑んだ。

(そうか、彼女はフランス生まれだという話だったなぁ・・・。)

ちょっと得をした気分になり、私は帰り道を歩き始めた。
いつかこの出会いを小説にまとめたい。私、鈴野十浪の心には、たった今出会っ
たばかりの妖精の姿がくっきりと刻みつけられていた。

      ハロウィンの夜。
   小さな妖精との出会い。
      それは一瞬のまぼろしか。