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編隊飛行(やっと終わり) @ ppp038.vit.or.jp on 97/11/22 07:09:58
In Reply to: ハロウィン大戦〜ジャック・オ・ランタンの思い出2
posted by 編隊飛行(懲りないやつ) @ ppp038.vit.or.jp on 97/11/22 07:07:41
> 「きゃぁぁ〜〜〜!!」
間一髪。アイリスを抱きかかえ路上に倒れた大神の横を、スピードを落とすこ
ともなく蒸気自動車が通り過ぎる。
「大丈夫?アイリス」
「お、お兄ちゃん・・・・」
さすがに怖かったのだろう。声がかぼそい。
「怪我はないかい?さぁ、向こうへ行こう。」
アイリスを軽々と抱きかかえ、歩道の方へ向かう大神。
「ご、ごめんね・・・お兄ちゃん・・・」
「俺が守る・・・アイリスは俺が守る。アイリスの恋人として・・・。」
「お、お兄ちゃん・・・。」
街灯の薄明かりが、二人の顔を照らす。時間はゆっくりとその刻みを止めてい
く。二人だけの時間を別に刻むために。
「アイリス・・・。さぁ、目を閉じて・・・。」
アイリスの大きな瞳がもう一度大きき見開かれると、軽くうなずき、ゆっくり
と瞼が閉じられていく。アイリスを抱きかかえたまま、左手でそっと瞳の下の涙
を拭ってやる大神。そして・・・・。
アイリスの顎の上、唇のほんの少し下に口づけをする。大神の上唇がアイリス
の下唇にほんの少しだけ、鳥の羽よりもなお軽いほど触れていた。
いち、に、さん・・・。わずかな時間ではあったが、二人にとっては永劫の時
間にも等しかった。
「お兄ちゃん・・・ありがとう・・・。」
「アイリス、あと10年、いや、あと5年たったら・・・。」
「それ以上は言わないで。アイリス、もっともっと、立派なレディーになるの。
そして・・・その・・・」
「ん?」
「お兄ちゃんのホントの恋人になって、たっくさんキスしてもらうの!!」
「ははははは」
「えへへへへ」
「よし。待ってるぞ。アイリスがずっとずっと、立派なレディーになってお兄ち
ゃんの所へ来る日をね。」
「あっ!!」
「どうした、アイリス?どこか痛むのか?」
「ううん。でも・・・カボチャのランタンが・・・。せっかくお兄ちゃんがアイ
リスのために・・・。」
車道には、さっきの蒸気自動車に轢かれてしまったのだろう。無惨につぶれた
カボチャが1こ落ちていた。
「いいんだよ、アイリス。あんなものまた作ればいいんだ。毎年・・・。そして
思い出すんだ。今日のこの光景を。二人だけの時間を・・・。」
「それから・・・お兄ちゃんとのキス・・・。」
頬を染め、つぶやくようにアイリス。ちょっとうつむき加減で照れているようだ。
「お兄ちゃん・・・。二人だけの秘密だね。」
「そう。二人だけの・・・そして、カボチャのランタンだけが知っている秘密。」
「うん。お兄ちゃん。約束だよ!!カボチャのランタンのひ・み・つ」
指切りをする二人。
「さぁ、歩けるかい?花組のみんなも心配してるだろうから帰ろうか?」
「うん。お兄ちゃん!」
歩道に降りたアイリスの手を握ろうとする大神を制してアイリスが怒ったよう
に話しかける。
「お兄ちゃん。恋人同士は、腕を組んで歩くの。アイリス、子供じゃないんだか
ら」
「ごめん、ごめん。そうだったね。あはははは」
すっかりと日も落ち、街灯の明かりだけが照らす通りを歩く1組の恋人たち。
夜空に顔を出した月も、恥ずかしいのか細く輝き、二人を照らすこともなかった。
ただ、大神の腕に懸命に手を伸ばすアイリスの姿は、腕を組んで歩く恋人とは
とても見えなかったのだが。
「遅いじゃないか、二人とも。」
帝劇の玄関を入ってきた二人にカンナの声が降り注ぐ。
「なんだ?しかも泥だらけじゃないか?」
「あっ?いやぁ、暗かったものだから転んじゃって。ねっ、アイリス」
「う、うん。お兄ちゃん。」
「なんだ?二人して顔を見合わせてにこにこしちゃって・・・。まぁいいや。も
う準備は終わってるんだから、さっさと泥落として来てくれよ。みんなお腹空
かせて待ってるぜ。」
「一番腹が減ってるのはカンナだろ?」
「違いないや。はははははは!」
「少尉ぃ〜〜!!早くぅぅ〜〜!!」
食堂の方からすみれの声も響いてくる。
「さぁ、顔を洗いに行こう。アイリス。」
「うん。お兄ちゃん。」
また、日常の帝劇での生活が戻ってきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。合い言葉は、カボチャの・・・」
「ラ・ン・タ・ン」
「二人だけの・・・ひ・み・つ」
毎年、ハロウィンが来る度に思い出すだろう。カボチャのランタンに秘められ
た二人の恋人たちの思い出・・・。5年後か、それとも10年後かにやってくる
その日の前に、二人で誓った約束を。
そして、あの日の軽い口づけを・・・・・。
〜 FIN 〜
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