第一幕



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投稿者: ditto @ tpro1.tky.3web.ne.jp on 97/12/14 00:22:39

In Reply to: サターンの金さん 第35回

posted by 金さん製作委員会 @ tpro1.tky.3web.ne.jp on 97/12/14 00:21:33

(第一幕)

−城中本丸・御三家詰め所前の大廊下(通称:松の廊下にて)−

「宮道殿、宮道殿!」
参勤交代で江戸に出てきた芸夢熱藩藩主・宮道は、上様への謁見を済ませた帰り道で自分を呼び声に足を止めた。

藩主・宮道(以下)「おお、これは坂田殿ではありませぬか。」
坂田というのは、藩主ではなく巣喰家藩の城代家老である。しかしながら入り婿の藩主よりも城内では実権をもっている人物である。藩主とは言え、財政状態はあまり芳しくない弱小藩の自分に、坂田のような大物から声をかけられたことを宮道は、嬉しく感じたのだった。

「この私に何か御用ですかな?」
巣喰家藩城代家老・坂田(以下)「お急ぎの所申しわけござらなんだ。いあやなに、取り立てて用と言うわけではない。ただ、お主の姿を見たら声をかけずにはおられんじゃった。」
「はあ?」
「お主の所の一大プロジェクト、ありゃなんと言ったかのう?」
「具卵出亜でございますかな。」
「おお、それじゃそれじゃ。今、日本中その話題で持ちきりでござるな。素晴らしい出来だと聞いておるぞ。」
「これはお褒め頂き、恐悦にござります。」
「そのような大きな仕事が出来るのも、お主の人望が厚いからじゃろうて。」
「いえいえ、忠義の家臣と領民の賜物でござります。」
「家臣や領民は主君を称え、主君は家臣や領民を称える。見上げたものじゃ。じゃが...」
「じゃが...?」
「種が良くても、痩せた田畑では立派な作物は育たぬ。まっこと惜しい。」
「坂田殿、一体どういう意味でござりますかな?」
「いや、百万石穫れるだけの種をまいても、田畑が痩せておれば...せいぜい五十万石がいいところ。折角の一大プロジェクトでものう...。いや、これは余計な話をしてしまった。是非お主とは、一度酒を酌み交わして話し合いたいものじゃ。いずれ文をよこすから、宜しく頼む。」
「...こちらこそ。」
意味深な坂田の話しぶりに気を留めながらも、宮道は中庭の前を通って玄関に向かった。
すると柳の間の前で、今度は枝肉酢藩の藩主副島に呼び止められた。

藩主・副島(以下)「これは宮道殿。久しゅうござるな。」
枝肉酢藩は最近でこそ巣喰家藩などの新興勢力に押され気味ではあるが、伝統と客式を重んじる日本随一の雄藩である。坂田といい、副島といい、当代きっての大物から声をかけられたことに多少の気味悪さを残しながらも、宮道は心の中では満足感に浸っていた。つまりそれだけ具卵出亜が注目されている証拠だからだ。

「副島殿、懐かしゅうござる。お元気そうで何よりでござる。」
「いやなに、まだまだ若い者には負けはせぬ。それより、そなたのところの具卵出亜、評判でござるな。」
「いやいや、滅相もござりませぬ。」
「ときに、宮道殿。名芸会なるものをご存じかな?」
「名芸会?はて、それは一体何でござるかな?」
「そうか、いやこれは失礼。知らぬのも無理はなかろう。名芸会とはプロ野球で言えば、名球会にあたるもの。すなわち、一本のソフトで百万本の売上を達成した者だけが、入会資格を持つという勝者の集団なのじゃ。」
「そ、そのようなものが...。」
「実はのう...、密かにわしはそなたに期待しておるのじゃ。次の名芸会員は、そなたしか居らぬのではないかとも思っておる。」
「な、なんと!」
「待って居るぞよ。ではこれにて失礼仕る。」
栄光の証でもある百万本の売上、今まで考えもしないことであった。いや正確に言えば、宮道は考えてはいた。しかし、自分には縁もゆかりもない世界のことだと思っていたのだ。
が、これだけ囃し立てられると、流石に意識せずにはいられなかった。
「もしかしたらいけるかも...。」
宮道の心の中に、そのような邪念がいつしか芽生えはじめていたのである。

「宮道殿!」
そんな浮かれ気味の宮道を、もう一人呼び止めた人物がいた。