第五幕



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投稿者: ditto @ tpro1.tky.3web.ne.jp on 97/12/14 00:28:28

In Reply to: 第四幕

posted by ditto @ tpro1.tky.3web.ne.jp on 97/12/14 00:27:00

(第五幕)

大崎の父の客は長蛇の列ではあったが、特別貴賓室のようなところへ二人は通され、程なくして大崎の父と思しき人物が水晶玉を持って現れた。安辺の話の通りだ。
「よろしく頼みます。」
大崎の父(以下)「...」
宮道は、自分が挨拶しておるのに何も言葉を発しない大崎の父に少々腹を立てた。弱小藩とはいえ藩主なるぞ!無礼な!と思ったが、そもそも占い師などは奇人が多い。ここはひとつ我慢するとするか。そう自分に言い聞かせていた。

「ん!んん!おおりゃ!」
奇声を発しながら、大崎の父は何やら水晶玉に向かって念じはじめた。一体何が始まるのか?宮道は、目を細めながら見ていた。
「お!?おお!?こ、これは。ふ、不吉な!」
「ふ、不吉!???」
そのような言葉を聞き逃すはずがない。
「左様!そなた、近々大きな事を企ててはおらぬか?」
「ぬ!?ぐ、具卵出亜というソフトを発売する計画のことか!?」
「うむ、それに違いない。そのプロジェクトは失敗、いや大失敗すると水晶玉は映し出しておるぞ。」
「な、なんだと!これは失敬な。儂らが命を削ってまでも進めておるプロジェクトを大失敗に終わるじゃと!?こんなインチキ占い、御免被る。失礼いたす。」
激怒して立ち去る宮道を、安辺が制して言った。
「まあまあ、そう立腹せずと。どうせ占いでござる。当たるも八卦、当たらぬも八卦ではござりませぬか。ここは落ち着かれて、ゆっくり訳を聞こうではありませぬか。」
確かにそうだ。昼間 大老との問答で、自分もそう答えていたではないか。宮道は、我を取り戻すとどっかと座り、大崎の父に問い正した。

「して、その理由は!?」
「鬼門でござる。」
「鬼門!?」
「左様。干支が丑年から寅年へ向かう。丑寅の方角、すなわち鬼門にあたるじゃ。そなたがこの次期にソフトを出しても成功はあり得ぬ!」
「馬鹿な!そんなもの、この年の瀬に出したソフトはみな同じく鬼門にあたることになるではないか。」
「いや違う。そなたの場合それだけではない。元凶は六年前に遡ると出ておるぞ。」
「六年前!?」
「その頃大きな決断をしてはいなかったかな?」
「大きな決断...。」
実は、宮道には思い当たるフシがあった。六年前...、宮道は並み居る家臣達の反対を押し切りプラットホームをMCDに変えたのだった。
「そなた、いまもその流れで仕事をしてはおらぬか?」
確かにそれ以降、MCD→サターンという流れで来ている。
「六年前といえば、未年から申年へ向かう年じゃ。未申の方角、これすなわち裏鬼門でござる。鬼門から鬼門への流れ、これは不吉極まりないことじゃ。用心されよ、ではこれにて。」
「ば、馬鹿な...そんな...。」
「宮道殿、そう気を落とされますな。ただの占いでござる。」
「し、暫く..一人にさせてくれぬか...。」



安辺と別れた帰り道で、宮道は一人思い悩んでいた。

自分のこの六年の行為は全て過ちだったのか?
他のプラットホームからも引く手あまただった。しかし、そんな誘いの言葉にはわき目もふらず、MCD→サターンという路線を貫き通した。
あまりソフトの宣伝はしてくれなかった。
CM枠も米粒程しか与えられなかった。
他のプラットホームでは、トルニタラナイソフトが大量のCMに援護され大ヒットをとばしているというのに、ひたすら操を守り続けてきた。
いつか大成功を収める日を夢見て今日まで。
このような忠実な自分の行為は過ちだったのか?
報われることはないのか?
...
...
...
いや、そんなはずはない。具卵出亜は必ず成功する。ソフトの出来は最高だ。成功しなければおかしい。では、成功の証とは?
そんな宮道の脳裏を昼間の副島の言葉がよぎった。
「名芸会とはプロ野球で言えば、名球会にあたるもの。すなわち、一本のソフトで百万本の売上を達成した者だけが、入会資格を持つという勝者の集団なのじゃ。」
そうだ、これだ名芸会だ。
具卵出亜を百万本売り、名芸会に入って見せる。これぞ成功の証だ。そして自分のこの六年間の行為が無駄ではなかったこと、過ちではなかったことを証明してみせる。



いきり立った宮道は、急ぎ藩屋敷へ戻ると、高住呼びつけた。
「これ高住。命令じゃ。」
「はっ。これは如何なされましたか?」
「百万本じゃ!」
「ひゃ、百万本!?」
「具卵出亜を百万本売るのだ!」
「そ、そんなご無体な。いまは景気もよろしくない。ご、五十万本ならば堅い線かと存知まする。」
「だめじゃ、だめじゃ、だめなのじゃ!百万本売らねば意味がない。」
「し、しかし...。」
「口答えは許さん。これは至上命令である。」
「ひええええ。そもそも私は営業でもないのにぃT^T

こうして藩主の大号令の元、百万本計画がスタートしたのであった。



To be continued


(注)この作品はフィクションであり。登場する個人・団体名は、実在のものとは何ら関係ありません。



委員会通達:ゴメンネ。この続きは年明けの第39回目になりそうm(_)m