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Rudolf @ 202.250.120.56 on 98/2/25 07:10:21
In Reply to: マトモ仮想外伝7,雪の下に蠢く闇
posted by Rudolf @ 202.250.120.56 on 98/2/25 07:08:59
「おお、さくらお嬢様、お帰りなさいませ。」
日もすっかり暮れたというのに玄関で掃き清めていた権太郎がまず出迎えであった。
「ただいま権爺、元気そうね。」
「お嬢様のお顔見たら元気でねえモンも元気になりますわ、さあさあ、大奥様も奥様もお嬢様のお帰りを首を鶴にしてお待ちです。」
所改まって真宮寺家奥座敷、上座に真宮寺桂と若菜、さくらの祖母と母が鎮座する。その前に着替えて正装をしたさくらが正座から深々と一礼してから挨拶を。
「御婆様、お母様、ただ今帰りました。」
「………。」
「さくらさん、よく戻りました、とおっしゃっております。」
降魔を、魔王を討ち果たして帰ってきたところで、桂のふりに何ら変化の訪れるものではなかった。それなのに若菜には理解できるのが何とも謎である。
「さくらさん、お帰りなさい。よくぞ達者で戻って参りました。」
「恐れ入ります、お母様。」
「帝都ではさぞ大変だったでしょう、米田さんが貴女を連れていったときからこうなる事は分かっていました。多くの血も流れたことでしょうけど、貴女が無事であったことにおめでとうを言います。」
さくらのみならず、帝都の民、ひいては万人を慈悲する若菜の気遣いである。
「………。」
「さくらさん、帝都での生活は如何ですか、とおっしゃっています。」
「はい、もう慣れました。帝劇の皆さんも本当にいい人ばかりで、中には、厳しい方もいらっしゃいますが、お母様に比べればお優しい方ですわ。」
「まあ、口も達者になってお帰りになって。」
「さくらお嬢様も守るべきものでもできましたか、」
さくらの成長ぶりに下手に控えていた権太郎も思わず口を出す。
「ええ、権爺。お父様の守ろうとした帝都が何なのか、そして帝劇の仲間達。みんな守るべき、守りたいもの。」
「………。」
「それだけではないでしょう、とおっしゃっております。」
「その他、……とおっしゃると?」
「いい人もできたか、という事です。」
「え、そんな、そんな人いませんよ。」
真っ赤になって、ムキになって否定するさくら、だがその胸に去来するのは最後の戦いへ赴く翔鯨丸の中、そして蒸気バイクを走らせて迎えに来てくれた大神との熱いひととき。そんなさくらに周りの三人は全てを悟っていた。
「‥今日はもう遅いですから、ゆっくりお休みなさい。お父様のお墓には明日参りなさい。」
「はい、そうさせていただきます、お母様。」
久しぶりに食する郷土の料理に地元のササニシキ。帝劇の料理も色とりどりで絶品だが、やはり延々と食べ続けた食材に調理。さくらならずともその別格の旨さは想像に難くなかろう。さくらはその味に存分な舌鼓を打った。
食事の後は総桧造りの浴槽で入浴。日本人である以上、落ち着かざるを得ない状況でさくらも何かを思い浮かべていた。
「お母様も御婆様も戯れわ、でも大神さんを連れてきたら何て言うのかしら。でも大神さんの方が二人に威圧されて参っちゃうわね。でも、大神さんが実家に来るなんて、考えられる状況っていったら…やだ、あたし何考えてるの?」
愛する男が女の実家に来て彼女の親権者や家長と対面する、何であろうか。
「でも、いいのかしら、あたし一人帝都を離れて。その間にも魔物が出てきたら、大神さんは『俺が二人分戦えばいいだけさ』なんていってたけど、神部も壊れたままなのに。でも叉丹も消えたんだから、そんな強い魔物は出ないわよね。」
結果として、彼女の心配はある意味、杞憂であった。そう、1年の後、太正十四年を迎えるまでは、という限定を用いるなら。
「はっ!…」
とっさに殺気を感じて湯船から飛び出るさくら、しかしその殺気は次の瞬間にはふっと消えていた。しかし覚えのある気、いつかどこかで感じたそれ、さくらの身体から水滴が落ちる事だけが時間の経過を示していた。
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