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Rudolf @ 202.250.120.56 on 98/2/25 07:11:31
In Reply to: マトモ仮想外伝7,雪の下に蠢く闇 その2
posted by Rudolf @ 202.250.120.56 on 98/2/25 07:10:21
次の日、足下に残雪は残るものの、空は澄み切った爽やかな青空であった。桶と花を携え、荒鷹を掲げて近くの父の墓標にさくらは向かった。
「足下には気を付けるのですよ。」
「はぁい、わかってまぁす。」
遠くのさくらから返事が返ってくるが、若菜には別の不安があった。彼女も夕べ、かの殺気を感じていたのだ。しかし、彼女にはとんと記憶のない、異なる感じのそれ。
「若菜さん案ずるでない、さくらならきっと大丈夫じゃ。」
「ですが御婆様。さくらの身にもし万一のことがあれば、」
「心配いらん。さくらは貴女の娘であり、一馬の娘、何より荒鷹の継承者じゃ。」
自信に満ち満ちている桂の言動、これは何を悟っているのか。
屋敷のすぐ近くに一馬の墓は建っている。シンプルながら家紋も入っており、それでいて荘厳なものを思わせる。
墓石の雪を払いのけ、柄杓で水をかける、そして花を取り替えてから手を合わせて礼拝、美女のそういう姿は実に絵になる。
「お父様、お父様の為した帝都防衛。私も為して帰って参りました。ここに来てようやくお父様が何故命を捨ててまで帝都を、人々を守ったのか、わかった気が、そう、わかった気がします。」
気がする、というのは些か一馬の場合とさくらの場合とでは守る状況や人に違いがあるがため、さくらにも控える言葉が出てきたのであろう。
「ですが、私には私の守るべきもの、進むべき道がある事がはっきりしました。そう、この荒鷹が指し示すのではなく、私自身が進み行く、えっ!」
突如、荒鷹が鞘を抜け出してさくらの右手に刃を向けて空中で静止した。
「荒鷹、何かいるのね。」
とっさにさくらも柄を握りしめて即応体制を取る。
「何者!出てきなさい。」
言い終わるが早いか、岩壁を雪ごとはね除けて現れたのは紛れもなく降魔。明冶神宮で遭遇したのと同じ奴。先手必勝とばかりにさくらは上段の構えから飛び上がって剣を降魔めがけて振り下ろした。
キィィンンンン!
金属同士がぶつかり合う様な音がしたが、降魔はさくらの攻撃を片腕でカードして受け止めた。ダメージなど皆無の様にピンピンしている。
「やるわね、だけどこれはどう?破邪剣征・桜花放神っーーー!」
初めて帝都に出る直前に会得したさくらの必殺剣術。並の魔族など一撃で屠る大技である。が、しかし、降魔には溶解液のような血が若干皮膚に滲む程度のダメージしか与えていなかった。
さくらのわずかな躊躇いを突いて即座に攻撃に移る降魔、その攻撃はさくらにさえかわすのが精一杯である。霊子甲冑どころか戦闘服すら纏っていないこのスタイルでは一撃が致命傷になりかねない、さくらは必死で降魔の攻撃をかわし続ける。しかし、そのために足下の雪に足を取られて体制が崩れる、その隙を逃すほど降魔は甘い敵ではなかった。
ズシャァァァァァッ
鋭い一撃がさくらの肩をかすめた。自らの回転も手伝い、10メートルも後ろに飛ばされ、父の墓にぶつかってやっと止まった。
圧倒的力で襲い掛かる降魔の前に為す術のないさくら、もう駄目かと思ったとき、彼女の心に父の言葉が浮かんできた。
『本当の強さとは剣の腕ではなく、慈しむ心のことだ。』
「慈しむ心、魔にはない、人の持つ人を守ろうとする力。お父様、わかりました。」
さくらの身体に気力が満ちあふれ身体から、剣から、満ちた霊力が湯気のように立ち上る。渾身の力をこめた一撃をさくらは投げつける。
「破邪剣征・百花繚乱っーーーーーー!」
これに降魔も必死で食い下がるが、もはやその程度の威力ではなかった。降魔ごと、剣先から飛び出た光球は空中へ飛んでいって爆発四散した。
「やりました、お父様。さくらは、」
そこまで言うと傷の痛みと極度の疲労からさくらもまた倒れ伏した。
その一部始終を影から見守っていた影一つ。
「ふん、やはりあの程度では傷一つがやっとかい、さすがは叉丹すらも倒した奴らといった所ね。まあいいわ。私のこの傷が癒えたときこそ、お前達、帝国華撃団最期の時よ、ふははははははは。」
高笑いを残しつつ、声の主は風と共に消えていった。果たして奴は敵か味方か、一体。
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