誰が為に叫ぶのか…とか言って。



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投稿者: VR @ 202.237.42.71 on 97/10/16 12:59:34

In Reply to: 第8回「魂の叫び」大会!!

posted by 天下無敵の無一文 @ es3cwww.cc.u-tokai.ac.jp on 97/10/08 12:19:19


 その時何が起こったのか。今ではもう、皆口にしようとはしない。
ただただ、あの異形の口から発せられる不快な呻き声が、今も頭のなかに
こびりついて離れなかった。

「榊原ーーーっ!!」

 血煙のたちこもる中、榊原の姿を探している自分が、まるで他人のように
客観的に捉えられた。どこまで行っても死骸、ヤツらの死骸。そして、粉々に
打ち砕かれた試作機の霊子甲冑…。
 
「まだ…まだ生きているはずだ…。」

 既に降魔のほとんどは鎮圧され、軍事関係者らしい集団が、黙々と負傷者
達を運んでいる。軍内では見かけない制服だ。噂に聞く……雪組か。
 
 翔鯨丸(当時そう呼ばれていたかは知らないが)から、対降魔効果のある
札が勧告ビラの様に撒かれ、残りの降魔を片付けていく。しかし、
あまりにも遅すぎた。俺のいた編成部隊はほとんど全滅だ。榊原は…無事
なんだろうか?

 ふと気付けば、桜の花びらの様に降り注ぐ札が、吸い込まれるように消えて
いく闇があった。近づけばそれは、夢組専用の霊子甲冑、『幻武』の影であった。

「榊原…………。」

 月組に配属された榊原が、今回の出撃で乗っていた機体だ。それは糸の切れた
操り人形のように沈黙していた。そして、あいつが乗っているはずの操縦席は……
…異形の歯形だけを残して、消えていた。

「うわああああああああ!!!!」



 その叫びは、まだ息のある降魔の呻き声と、止みそうにもない
銃撃の音にかき消された。俺だけが、榊原の死を理解した。


 数日後に知った事だが、この戦いで遊撃に使用された幻武は、
榊原が搭乗したものを含めて七体あったそうだ。他の六体は
どうしていたのか……。それらはすべて、天皇を護衛するために
配備されていたというのだ。
 彼等にとっては、人命を護ることなどどうでもよかったのかも
知れない。ただ、自分は天皇陛下に尽くしているんだという姿勢、
後に非難を浴びず、自分自身に対して言い訳のきく理由が欲しかった
だけだ。
 あと一体でも、銀座近辺に幻武がまわされていたなら……これほど
までに被害は広がらなかったかもしれない。そして、榊原も………。

 確かに勝手な言い分だ。降魔にしてみれば、自分達を殺そうとする
人間たちが、さぞ異形で、不気味な存在に思えただろう。しかしそれでも
俺は……人間だから……自分の仲間を守れなかったやるせなさ、軍部の
ずさんな配備に対する怒りが、葛藤となって残るだけだった。

 花組に配属されて…つまり帝劇に来て一日目から、俺は軍人言葉を使わない
ように練習した。軍意識に執着すれば、あの惨事を思い出すだけだから。
 それでも、夢は見る。いつも同じなのに、夢の中で「これは夢だ」と
自覚することが出来ない。あの戦いが、生々しく蘇る……。

「榊原!!」



 もう何度この名を叫んだだろう。はっと目が覚めると同時に、自分が
随分と大きな声で叫んでいたのを自覚した。
 隣の部屋にいるあやめさんには、もう何度も聞かれていることだろう。
しかしあやめさんは、そんな事を花組の皆に吹聴するような人じゃない。
 窓を開けて町を眺め、今いる空間が悪夢の続きではないと自分自身に
言い聞かせる。

 だからほっとするのだ、花組の皆の声を聞くと。早く声を聞きたいから、
起きて早々帝劇内を散歩する癖がついた。あの悪夢から解放されるまで、
ずっと続けていくことだろう。



 『隊長は、昔の夢をよく見ますか?』


  ああ、よく見るよ。


 『どんな夢なんですか?』


  ……多分、君とたいして違わない夢だろう。



      (了)


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 どこが叫びなんだ!という叫びが聞こえてきそう(^^;
ページ更新したからもう読んでな……あ、長期休んでいて
数ページ前からチェックしてる方、ごめんなさい長くて。
一応叫んでるでしょ(そうかな?)。