Re: 花火大戦〜藤枝あやめの章〜(後編)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti011.osk.threewebnet.or.jp on 97/8/06 00:09:53

In Reply to: 花火大戦〜藤枝あやめの章〜(前編)

posted by うぉーろっ君 @ tkti011.osk.threewebnet.or.jp on 97/8/06 00:05:31

> 「……伏魔殿だったとは思えない、綺麗な死に様ね……」
>  俺とあやめさんの霊力を受けて、聖魔城は崩壊してゆく。色とりどりの
> 閃光を放ちつつ。その光景は、さながら真夏の夜の花火のように壮麗だ。
> 今にして思えば、あれはかつて理不尽に殺された、大和の民の魂が天上へ
> 登ってゆく姿だったのかもしれない。

******上からの続きです******

「帰りましょう、あやめさん。帝劇のみんなが待ってますよ」
 しばらく無言で、あやめさんが俺の顔を見る。少し憂いを含んだ、
優しい笑顔に見つめられ、つい、顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「ありがとう、大神くん。でも、私は帰れないわ」
「……そんな、何故!? あの時の事でしたら、もう済んだ事でしょう!?」
 あの時の事……彼女が降魔になり、敵に寝返った時の事を口にするつもりは
ないし、必要もないだろう。
「そうじゃないのよ……私はもう消えちゃうの」
「き、消えるって、どういう……」
 聞き慣れない声。それが自分の震えた声だと言うことに気付く心の余裕は
なかった。
「私は人間じゃない。それどころか『あやめ』ですらない。私は、想いの集合体」
「……想いの……集合体?」
「そう。あなたが、そして帝劇のみんなが私に『居て欲しい』と想ってくれた
から、私は生まれ、存在できた。……でも、想いはいつか薄れ、消えゆくもの
……」
 あやめさんの言ってることは、俺にはわからない。わかるのは、俺はまた、
大切な人を目の前で失う事になるのだろうと言うことだけだ。
 そんな俺の心に構わず、あやめさんは言葉を続ける。
「『あやめ』として生まれた私は、真之介さんの遺した過ちを消したかった。
そして今、あなたのおかげでその過ちを消し去ることが出来たわ。これで……」
 美しい魂の花火に包まれ、崩壊を続ける聖魔城に視線を移し、あやめさんは
優しい、しかし、はかなげな表情を浮かべた。
「もう、思い残すことはないわ」
「いやです!!」
 目の前のあやめさんが、花火と共に消えてしまいそうな気がして、俺は思わず
彼女の肩に手を伸ばした。思ったより、その肩は細かった。
「帰りましょう、俺たちの帝劇へ! 集合体だろうが何だろうが、今のあなたは
紛れもなくあやめさんです! 生き続けるのに想いが必要なら、俺がいつまでも
想ってます!……だから、消えないで下さい……」
 もう嫌だ。目の前で大切な人が死んでしまうのを何も出来ずに見ているしか
出来ないなんて。そんな経験は、もう二度としたくない。
「こぉら! なんて顔してるの、大神くん。男の子が、みだりに人前で
泣くものじゃないわ」
「あやめさん……」
「人はね、置いていくものがあって、初めて新しいものを持っていけるの。
失うべきものを失うことに躊躇してちゃ、先には進めないわ。
……あの子たちのこと、頼んだわよ」
 前と同じように、あやめさんが人差し指で俺のおでこを小突く。
 彼女の言うとおり、俺にとって、あやめさんの事は「置いていくもの」
なのだろう。それで初めて、花組のみんなと先を歩んでいくことが出来る。
花組のみんなとの繋がりが、花組の力となるのだから。
 しかし、それをすんなり受け入れられるほど、俺の心は強くない。
頭では理解できても、感情が付いてきてくれない。
「……ありがとう。『命』ですらない私なんかのために涙を流してくれて……」
 俺の頬に手を伸ばし、あやめさんが笑った。
「あなたに逢えて、嬉しかった……」
 その言葉を最後に、肩を掴んだ手の感触が唐突に消え失せた。
「あやめさん!!」
 返事は、無い。……あやめさんは、消えてしまった。
 俺は呆然と、その場に座り込んだ。身体に力が入らない。
「大神さん……」
 背後に人の気配と声がしても、振り向く気にはなれなかった。
「大神さん、やっぱりあやめさんのこと……好きだったんですね」
 気配と声の主が、ふわりと俺の前に座る。
「……さくらくん、どうしてここに?」
 俺の問いに答えず、さくらくんはじっと俺の目を見つめる。まず、俺が
質問に答えろ、て事か。
「……わからない」
 以前、彼女に同じ質問をされたときと同じ答えを返す。
「……俺は、ただ、あの人の笑顔が見たかった。いつも浮かべてた、陰のある
笑顔じゃなく、心の底からの、本当の笑顔を見たかった。……それだけなんだ」
 俺のこの想いが、恋なのかどうかは、恋愛経験の少ない俺にはわからない。
自分で選んだ道とは言え、つらく厳しい人生を歩んできた女性に、だからこそ
幸せに笑うことが出来る人生を、これから歩いていって欲しかった。
……これが、偽らざる俺の本音だ。
「……さくらくん、俺は、弱虫なのだろうか……?」
 自分でもよく聞き取れないか細い声で、俺は呟いた。
「あのあやめさんは想いの集合体だった。そんな、夢幻のような存在が
消えただけのことで、俺は涙を止めることが出来ないんだ」
「大神さん……」
「男として、隊長として、むやみに泣いたりしちゃいけない。あやめさんにも
言われたことだ。でも、駄目なんだ……」
 消える間際のあやめさんの笑顔が脳裏に浮かび、俺は声がつまった。
「……俺は、弱いんだ。弱虫な奴なんだよ」
 両手で顔を覆う。これ以上、情けない顔をさくらくんに見られたくなかった。
「……大神さんは弱虫なんかじゃありません。本当に弱虫なら、人を想い、
人の立場を想い、人の痛みを想って涙を流すなんて出来ませんよ」
 さくらくんの手が、俺の手を握った。少し剣ダコがあることを除けば
柔らかい手だ。
「あたし、何故か聞こえちゃったんです。大神さんの心の声が。再び、
かけがえのない人を目の前で失ってしまう事に、それを黙って見ていることしか
できない事に傷つき、泣く声が」
 俺が伏せていた顔を上げると、さくらくんの優しい瞳が間近にあった。
「だからあたし、ここに来たんです。大神さんの心、助けたかったから」
 もう、抑えることは出来なかった。胸の奥からこみ上げてくる、とてつもなく
熱い固まりを。……いや、抑える必要が無くなったのだ。
「……さくら……!」
 俺は彼女の膝にくずおれ、慟哭した。初めて、人にすがって泣いた。
「……大神さんは、今までずっとあたしを守ってくれました。今度からは、
あたしにも大神さんを守らせて下さい。もう、あたしの前で無理をすることは
無いんですよ……一郎さん……」
 俺の頭を、さくらくんが優しく抱きしめる。彼女の中で、俺はいつまでも
泣き続けた。

 聖魔城の崩壊を彩る、天上に昇る魂の花火が、二人の姿を優しく包む。
 温かい心と、そして、優しい想いを共に――。

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ふぅ、長くなっちゃいました。
今回は、花火大戦と見せかけて、ゲーム中では語られなかった
あやめさんの結末を勝手に書き上げた作品……と見せかけて、実は
大神とさくらのラブラブ話だったという、ふざけた小説です(^^;
しかし、この程度の長さで、しかもこんな稚拙な文章を書き上げるのに
トータル6時間もかかるとは……情けないねぇ、俺(;-;)

最後に、5日……いや、6日も遅れてしまって申し訳ありませんが、
藤枝あやめ様、誕生日、おめでとうございます。
この作品を、誕生祝いとして、貴女に捧げます。