花火大戦〜藤枝あやめの章〜(前編)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti011.osk.threewebnet.or.jp on 97/8/06 00:05:31

 悪魔王との戦いも終わり、帝都にもようやく真の平和が訪れた。
旅に出てしまったさくらくんも無事連れ戻すことが出来、なべてこの世は
事も無し。
 ……いまだに東京湾に鎮座まします聖魔城を除いては。
 そんな折、俺の元に差出人不明の一通の手紙が届いた。
「貴公の力を拝借したい。夜半、一人で東京湾まで来られたし。他言無用」
 内容はこんな感じだ。
 差出人不明、て辺りがいかにも怪しさ大爆発だが、何故か妙に気になる文字だ。
それだけの理由で誘いに応じる俺は、やはり隊長失格かもしれない。マリアが
知ったら呆れ果てるだろう。

「久しぶりね、大神くん」
 東京湾、聖魔城を背景に、その人物は立っていた。
 栗色の長い髪をアップにした、軍服姿の女性。そう、彼女は……。
「あやめさん!?」
 帝國華撃團副指令、藤枝あやめ、その人であった。
「ど、どうして……?」
 彼女の肉体は消滅し、魂は天使長ミカエルの手に抱かれ、天上へと昇ったはず。
もはや、この世界に存在することは出来ないはずなのに。
 ……いや、理由なんかどうでもいい。
「ふふっ、何を惚けた顔をしてるの? おかしな子ね」
 その女性――あやめさんが、前と変わらぬ、優しいが、どこか陰のある
微笑みを浮かべる。
「あ、すいません。嬉しさのあまり、頭がぼーっとして」
「あら、お上手ね」
「お世辞じゃありません、本当に嬉しいです! 戻って来てくれて」
 本当にお世辞なんかじゃない。俺が男じゃなかったら、嬉しさのあまり、彼女を
抱き締めているところだ。
「……ありがとう」
 その声が少し寂しげに聞こえたのは、俺の気のせいだろうか。
「でも、どうしてここに? 帝劇にならみんなが居るのに」
「……やり残したことがあったのよ、ここに」
 目の前にそびえ立つ聖魔城に視線を移す。
「この城をこのままにしてたら、未だこの城をさまよう、無数の報われない魂が
放つ瘴気で、帝都の治安は再び乱れるわ。――協力してくれるわね? 大神くん」
「それはかまいませんが……でも、それなら花組のみんなも呼んだ方が……」
「みんなが力を合わせて、あの悪魔王さえ吹き飛ばす力を出してしまったら、
東京湾の面積が広がってしまうわ」
 悪戯っぽく微笑む。
「大丈夫。大神くんなら出来るわ。あなたは、天使長に見込まれた男なのよ。
自信持ちなさい」
「――はい!」

 両手に二本の刀を持ち、俺は聖魔城に向かって構えを取る。そのすぐ横で、
あやめさんも抜剣し、構える。
 ……感じる。俺たち二人の霊力が共鳴し、高まるのが。これなら、いける!
「いくわよ、大神くん!」
「はい!!」
「天網恢々疎にして漏らさず」
 あやめさんが囁く。
「紫電一閃怨敵退散」
 俺が言葉を返す。
「我ら、悪を蹴散らし、ここに正義を示さん!」
 声を揃える。霊力は最高潮、放つなら今だ。
「狼虎滅却・天魔降伏!!」

「……伏魔殿だったとは思えない、綺麗な死に様ね……」
 俺とあやめさんの霊力を受けて、聖魔城は崩壊してゆく。色とりどりの
閃光を放ちつつ。その光景は、さながら真夏の夜の花火のように壮麗だ。
今にして思えば、あれはかつて理不尽に殺された、大和の民の魂が天上へ
登ってゆく姿だったのかもしれない。


******下に続きます******