エッセイ「自動ドア」



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投稿者: さすらい @ 133.65.41.10 on 97/10/13 10:25:32

自動ドア

私が図書館から帰るときのことだった。
日曜の閉館まぎわで、外は薄暗くなっていた。その日私は、近頃お気に入りの
村上春樹の本を4冊読んだ上、もう4冊借りていて、最高に気分が良かった。
その図書館のドアは自動ドアだった。内側からはマットレスが重さに反応して
開き、外からはセンサーが反応すると言った仕組みだ。
私が出ようとしたとき、丁度男の人が入ろうとしていた。私はその人のために、
マットを踏もうとしていた足をずらして、静かに待った。前の人が抜けたあと
だったらしくドアは半分ほど閉まりかけていて、その男の人は隙間に手を差し
込んだ。普通ならそれでもう1度開くはずだった。男の人をセンサーが認識す
るからだ。しかし、ドアは恐ろしいほどのゆっくりさで閉まり続けた。私はた
だ見つめていた。頭の中は空っぽだった。
もう少しで男の人の腕がはさまる、といったとき、彼と私の目があった。彼は
もの悲しそうの目をして、私に訴えていた。その時の私は本当に惚けていたの
だろう。1秒かかって彼の言わんとしていることを感じとり、また1秒かけて
その行為をやった。
なんのことはない、足下のマットを踏んだのだ。すんでの所でドアは開き、男
の人は無事通り抜けることができた。彼はすれ違いざま私に「ありがとう」と
つぶやいた。私はお礼を言われるようなことをしていないと心底思って、「ど
ういたしまして」がでてこなかった。本当ならば言うべきだったのだ。だって、
本来の意味を感じていたのだから。
「どういたしまして、お礼なんか言われたのでしょう。私は何もいたしてませ
んよ」

しかし、今でも疑問に思う。なぜセンサーはあの男の人を感知しなかったのだ
ろうか。私が入るときにはちゃんと働いたし、すぐ前の人は楽々と入ってきて
いた。
察するところ、近付きすぎたか、体温がないのか。後者だったら本気で怖い、
などとばかげたことを考えながら自転車をこいでいた。自転車での考え事は、
時折本体が考えもしないくらい暴走するから面白い。


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私は近頃こんな短文を書きためています。
全部で今6つあります。(テーマだけメモってあって書いてないのが5つほど・・(^^;;))
他のも読みたいと思ってくださった方、なんだかなぁと思われた方などなど、レス付けよろしくお願いいたします。

ではでは