第三幕



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投稿者: 遠山金三郎 @ tproxy.tky.threewebnet.or.jp on 97/8/03 23:57:07

In Reply to: 第二幕

posted by 遠山金三郎 @ tproxy.tky.threewebnet.or.jp on 97/8/03 23:52:28

(第三幕)

「一年前俺は唯に、鬼に掛け合って来るといい残したまま山奥へ向かった...



 そして苦労の末、鬼の屋敷を見つけた。それがここだ。
 しかし重い門はとても開かねえ。門を叩いたり、叫んでみたが、中からは何の返事もなかった。
 途方に暮れているとRPGの木の前で会った老婆が現れて俺にこういった。
 老婆「お前さんに言い忘れておったが、鬼に会うには、腕力がなけりゃだめなんだよ。まずこの門を開けられるくらいの腕力が必要なんだ。でも腕力だけじゃこの門は開かないのさ。」
 「えっ!?」
 老婆「見てごらん、そこの柱を。穴が3つあいてるだろ。そこにはめ込む赤・青・黄色の玉を集めないといけないんだよ。」
 「その玉はどこにあるんですか?」
 「さあね。自分で調べるこったね。...おお!、思い出したよ。黄色の玉は丹沢にあると聞いた。鬼の宝玉といえば、わかるかも知れないよ。」
 老婆の言葉を信じて、俺は丹沢に向かった。そう簡単じゃなかったけど、程なく黄色の玉は手に入れた。青い玉は秩父の山奥で見つけた。問題は赤い玉だった。赤い鬼の宝玉なんて誰も知らねえという。誰かが不死の山にあるというのをきいたことがあるってのを頼りに、不死の山=富士の山と思い込み。富士の麓の村の年寄り連中を片っ端からあたってみたが、なしのつぶてだった。
 ところがだ、これまた誰かが「その赤い玉なら、以前に掘り出されて小田原の殿様の城に飾ってあるそうだよ。」って言っていた。しかし、俺のような者が殿様に会えるわけがねえ。訳を聞いてくれるはずがねえだろ。だから俺は城に盗みに入るしかねえと思った。でもよ、いままで真っ当にお天道様の下で生きてきた人間だ。盗みを働くには良心の呵責に耐えられねえ。それに厳重な城に簡単に入り込めるはずがねえ。
 ところが拾う神ありだ。風魔の抜け忍で、小田原の城に忍び込んだことがあるってやつに偶然出くわしちまった。そいつはよ、俺の話を聞いてくれて、盗んできてやっても良いていうんだ。でも盗んだだけじゃ騒ぎがでかくなる。だからすり替えてぇて言うんだよ。となると、すり替えの玉が必要だ。すり替えの玉なんかあるわけねえじゃねえか。
 それでいろいろあたってみるとよ、腕の良い玉造が御殿場に居るっていうんだ。俺はすり替えの玉を造って貰うためによ御殿場でその職人を訪ねた。しかし、その職人はもうこの世にはいなかった。でもその息子が居てよ、親父に勝るとも劣らぬ腕だという。しかしその息子はいつも飲んだくれて、たまにしか帰ってこねえという。俺は御殿場の酒場を隅から隅までその息子を探した。なんとか息子は見つかったよ。訳を話して造ってくれって言ったら、材料がねえっていいやがる。その材料はどこにあるんだってきいたら、紀州の那智山でしか採れねえっていう。
 で、俺ははるばる紀州まで行った。ところが玉の材料は、紀ノ国屋っていう豪商に全部買い占められてもう採れなくなってた。紀ノ国屋で売られている値段は目玉が飛び出るほど高くて話になんねえ。
 金さえありゃ何とかなるって思いこんだ俺は、優勝者に賞金が出るって言う相撲大会に出ようと思った。で、低尾の山に戻って熊と格闘したりで腕っ節はどんどん強くなっていった。そしていつの間にか相撲大会のことなど忘れて、自分がどんどん強くなることに喜びを覚えていった。しかしそれだけじゃまだ足りねえと思い、体を強靱にするという薬草を探して、たらふく喰ったりもした。しかし、徐々に自分の体に変化が現れてきやがった。


「ここまで話したところで、あんた、俺の本当の目的を覚えているか?」
「え!?相撲大会で優勝する事じゃあ。」
「違ううううう。俺の本当の目的は、鬼にあって万人向けのRPGを貰うことだろ!」
「ああ、そうだったね。」
「しかし、無理もねえ。ここまでひねられちゃ、なにが目的でなにが手段なのかわかんねえだろ。」
「まるで今のRPGを地で行ったような展開。本筋と違うシナリオをやらされたり、経験値上げも。」

「で、こうなったらうざってえことは全てやめて、正面から小田原の城に乗り込んで赤い玉を奪ったのさ。なあに、今の侍は、平和ボケで腰抜けばかり、簡単なもんだった。そして3つの玉を集めた俺はここの門にはめ込んだ。俺に取っちゃ門は軽く、簡単に開いた。
 いよいよ鬼と対面と思いきや、どこを探しても鬼は居なかった。ところがよく見ると棚の上に例のRPGが置いてあるじゃねえか。しめしめと思いそれを持って帰ろうとしたとき、いきなり声がしやがった。「おめでとう!低尾山の新たな主、鬼の誕生だよ。」それはあの老婆の声だった。言葉に言う"主"が俺の事だって言うのもすぐに悟ったよ。なんてことだ、このRPGを手に入れるには、自分が鬼にならなきゃいけなかったんだ。
 俺は恐る恐る水鏡を見た。そこに映っている俺の姿は、あんたらが今見ている通り、鬼そのものだったよ。」
「な、なんて悲しい運命なの...。」
「俺は割切ってこのまま鬼として生きて行こうとした。しかし唯のことお父っつあんのことが忘れられなくて、何度も村の近くまで降りていった。でも村人は俺を見るなり、鬼が出たと叫びやがる。」
「それが今回の鬼騒動の発端か。」
「俺はもうこんな姿じゃ、妹に合わせる顔がねえ。お願いだあんた、唯にこのRPGを渡してくれ。そして兄は、...死んだと伝えてくれ。」
「わかった。かならず渡すよ。」
「でも金さん。長五郎さんを、このままにしておけないわ。」
「それで妹さんに会わせるっていうのか。そりゃ惨いぜ。」
「気遣いありがとう。でもこのまま会わない方がお互い幸せなんだ。」
「長五郎さん...。」