小説「いつか見た夢」2(長文)



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投稿者: みお @ max2-ppp44.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/02 23:07:09

In Reply to: 小説「いつか見た夢」1(長文)

posted by みお @ max2-ppp20.kasai.sannet.ne.jp on 98/3/02 22:53:56

「マリア。君達には今、舞台がある。三人娘もそれぞれの仕事があって、忙しそうにしている。俺にも、モギリという仕事がある…」
「そうですね。叉丹がいなくなった今、帝国華撃団の任務はそんなに忙しいものではなくなりましたから」
「平和なのはとてもいい事だと思う。しかし俺は、何となく今の生活に疑問を感じるんだ」
「こんな事をしていていいのか…という事ですか」
「………そうなんだ」
 マリアは大神の顔を見た。
 明らかに、迷いが見えた。
 マリアは帝撃隊員として、そして帝劇の一員として、大神の隊長としての顔をよく知っていた。モギリとして帝劇内で働いている大神の顔も、よく知っていた。
 今の大神は、そのどれとも違っていた。
「平和というものは、かりそめのものです。永続する事は、有り得ません……悲しいですが、そういうものなのです」
 大神は、叉丹が再び現れた日の事を思い出していた。さらにマリアは続ける。
「平和を願う心は大切です。平和は、当たり前であってはならないのです。平和である事は、とても価値ある事なのですから」
「私もそう思いますわ」
「!?」
 いつの間にかすみれがいた。手にはティーセットを持っている。
「失礼だとは思いましたけど。聞かせていただきましたわ、さっきのお話」
「すみれくん………」
 すみれはすました顔で七つのカップを用意し、紅茶を入れ始めた。
「七つ………………?」
 首をかしげる二人の前に、肩をすくているさくら、アイリス、紅蘭、カンナが現れた。
「みんな!いつからそこに?」
「ご、ごめんなさい気になってつい…」
「たちぎきはよくないって、わかってたけど…」
「カンナはんが、隊長はん元気ない、言うから。そしたらマリアはんと何やしよるやろ?どないしたんやろ、思て」
「悪ぃな、二人とも」
(みんな、分かっているんだ……)
 大神は一人一人を見て思わず微笑んでいた。
「アイリス、クッキー持ってきたんだよ!みんなで食べようよ!」
 アイリスの瞳は、澄んでいた。
「………そうだね」
 大神はクッキーの缶をアイリスから受け取ると、テーブルに置いた。二人だけだった席が、賑やかに埋まる。みんなそれぞれに、くつろいでいる様子だ。
「今日は休演日やし、ゆっくりできるでぇ〜」
「そうね。ここのところ舞台ばっかりだったし」
「たまには休みもないとな」
「本当に、ゆっくりできますわね」
 すみれが紅茶に砂糖を入れ始めた。
「アイリス、お砂糖いっぱい〜!」
 大神のとなりで、アイリスがさっそくクッキーを頬張っている。
「だめよアイリス、たくさん入れたら虫歯になるでしょう?少しにしなさい」
 反対側からマリアがたしなめる。大神は二人に挟まれて、少し当惑気味。しかし二人は、そんなことお構いなしである。
「いや!アイリス甘いのが好きなんだもん!」
「歯が痛くなってもいいの?」
「…………やだ」
「だったら我慢しなさい」
「はあ〜い。…あっ、すみれ。ジャンポールの分がないよ?」
 すみれはやっとクッキーに手を伸ばしかけたところだった。
「ジャンポールの分、ですって?」
 すみれはしばらく面食らった顔をしていたが、
「仕方ありませんわね」
 しぶしぶながら腰を上げ、再び紅茶を入れ始めた。

 二人だけだったサロンは、あっという間に賑やかな団欒の場と化していた。