【正月大戦】冬の花のプレゼント・後編(長文)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti007.osk.3web.ne.jp on 98/1/10 06:51:32

In Reply to: 【正月大戦】冬の花のプレゼント・前編(長文)

posted by うぉーろっ君 @ tkti007.osk.3web.ne.jp on 98/1/10 06:49:26

「いえ……なんでもありませんわ。でも、プレゼントを買い忘れたのは災難
ですわね。……お間抜けではありますけど」

 最後に肺腑をえぐる言葉を付け加えてきた。
 ……ううっ、そんなことは言われなくてもわかってますよ。

「じゃあ、こういうのはどうでしょう。わたくしのお茶会にしばらく付き合って
下さったら、お礼にこのオルゴールを差し上げてもよろしくてよ」
「…………!」
「悪い取引じゃないと思いますけど。どうなさいます?」
「――折角ですが」

 確かに悪い取引じゃない。でも、僕は断った。

「彼女が……待ってますから」
「少しくらい遅れても大丈夫ですわよ。それとも……」

 さっき見せた、悪戯っぽい笑顔を再び浮かべ、女の人は言葉を続けた。

「そんなに、彼女が怖いんですの?」
「それもありますけど……」

 右手の人差し指が、所在なげに頬を掻く。

「心配、させたくないんです。もし、プレゼントを持っていけなかったことで
嫌われたなら、それでも構いません。彼女に心配させるくらいなら、僕は
嫌われる方を選びます」

「……そう」

 女の人が、ちょっと寂しげに微笑んだ。

「そうですわね……待ち人来たらずというのは……切ないものですものね。
彼女は……幸せ者ですわね」
「いえ……彼女にとって、僕は『心配するべき人』であって欲しいという、
僕自身の自惚れと願望なんですけどね、今言ったことは。……逆の立場に
なれば、僕はやっぱり彼女を心配しますし」

 顔が熱い。おそらく、赤くなっているのだろう。

「いいえ、おそらく、彼女もあなたと同じ気持ちですわ。もう少し、自分に
自信をお持ちになった方がよろしくてよ」
「はぁ」
「彼女が待ってらっしゃるわ。さぁ、早くお行きなさいな」
「すみません。折角のお誘いを。……ではっ」

 頭を下げ、急ごうと振り返った僕の背中に、

「お待ちなさい。せめて、ここのお花を摘んでいって、彼女に渡すなんてのは
どうです? 女の子にとって、好きな人から送られるお花は何よりのプレゼント
ですのよ」

 女の人の優しい声が飛んできた。

☆          ★          ☆


 あのあと。
 なんとか、待ち合わせの時間には間に合った。案の定、プレゼントを
買い忘れたことでヘソを曲げられたが、あの女の人の花畑で摘んだ花のおかげで
なんとか機嫌を直してもらえた。
 次のデートには絶対プレゼントを持ってくることと、それに加えて両手が
いっぱいになるほどの花束も約束させられたけど。
 そして、夜。その帰り道。彼女を家まで送ったあとで。
 僕はその門の前を通りかかり、また、足を止めた。
 あの女の人、まだいるだろうか。門をノックしたら出て来て、この星明かりの
下でお茶会のやり直しをしてくれるだろうか。
 それとも、折角の誘いを断った、って怒ってるかな。
 そんなことを思いながら門の前で佇んでいると、ちょうどそこを通りかかった
お爺さんが、不思議そうな顔で訊ねてきた。

「若いの、そんなところで何をしとるんじゃ? ここには、もう何もないぞい」
「何もない? でも今朝、中に女の人がいたんですよ」

 そんな馬鹿な、と僕が言い返すと、お爺さんは首を傾げた。

「そんなはずは無いぞい。ここは50年以上前の空襲で建物が焼けて以来、
ずっと放置されとった場所なんじゃし」
「本当です! 中には花畑があって、女の人がお茶会しようって……」
「ふぅむ……」

 お爺さんはしばらく腕を組み首をひねりつつ唸っていたが、やがて、想い出を
懐かしむようにゆっくりと話し始めた。

「お前さん、夢でも見たんじゃろう。確かに、ここは70年ほど前、とある
財閥のお嬢様が別荘として使っておった。その屋敷の周りには、そのお嬢様が
好きなパンジーの花が、まるで花畑さながらに植えられてたのを今でも覚えて
おるが……」
「あれはパンジーの花だったんですか」

 恥ずかしながら、僕は花の名前には甚だ疎い。

「実は今朝、少し摘ませてもらったんです。彼女へのお土産にって」
「若いの、年寄りをからかっちゃいかんよ。この寒空に、どうしてパンジーが
咲くものか。あれは春から夏にかけて咲く花じゃよ」
「……!」

 そう言えば彼女も、こんな時期に珍しい、と言ってたっけ。

「おお、そう言えば、お嬢様がわしに聞かせてくれた話で、今でも心に残ってる
ものがひとつあるな。確か……本当に好きなものを手に入れようと思ったら、
今まで自分が持っていた何もかもを捨て去る覚悟がいる、と。自分はそれを
ためらってしまったばかりに、桜の花に神様を取られてしまった、とな」
「捨て去る……覚悟……」
「その頃幼かったわしにはよくわからん話じゃったが……今にして思えば、
あの若さでそんなことを言えるなんて、かなり波乱に富んだ人生を歩んで
きてたんじゃろうなぁ。話の後半は、今でもよく意味はわからんのじゃが」

 じゃあ、僕は……あの女の人に試されていたのだろうか。覚悟の程を。
もしそうだとしたら、僕は合格したのか、不合格だったのか……?
 滔々と続くお爺さんの昔話に耳を傾けながら、僕はそんなことを考えていた。




「もう一本」です(笑)。
……眠い。
非道い体調で書き上げたので、死ぬほど駄作になってしまいました(^^;
さらっと流し読める程度の短編になるはずだったのに、書き終えてみれば
なんで一太郎6ページ分になっちゃう訳ぇ? もう信じらんなーい。みたいな。

……すみません(^^;

さて、主人公。プロット上では「僕」だけで終わる、名無しのゴンベでしたが、
主人公のモデルにした某氏が、某作品で、おそらく偶然でしょうが、私を本名で
大活躍させてくれてたので、ちょっとした仕返し……じゃない、お返しとして、
急遽名付けました。
おそらく、モデルになったご本人には誰だかわかるんじゃないかな、と。
ちなみに、本名じゃないです。って言うか、本名知りません(爆)。

何故、パンジーなのか。
わからないとおっしゃる方は、辞書をお引きになれば
お分かりになるかと(^^)

最後に。
二日も遅れてしまってご免なさい。
お誕生日おめでとう、すみれ嬢。今宵(って、もう朝ですが)、二つの物語を
貴女に捧げます。
……え? いらない? 特に最初のは? やっぱし(^^;;;