Re: 読切「マリアの青い手帳」



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投稿者: HRK @ meshsv70.os.mesh.ad.jp on 97/11/24 01:10:57

In Reply to: 読切「マリアの青い手帳」

posted by HRK @ meshsv70.os.mesh.ad.jp on 97/11/24 00:53:00

「と、ところで、マリア。俺は、今日君に大切な話があるんだ。」
するとマリアは頬を染めてうつむいてしまった。
俺の改まった態度から察したんだろうか、こういうマリアはかわいいと思う。

突然店内に「ピン!ピロリロリン!」、という音が響いた。

俺は驚いて辺りを見回したが、辺りは今までと何も変わっていない。
いい加減怖くなってきたが、何かいい感じのする音だったので、
話を続けようと俺はマリアを見た。

するとマリアはまたその手帳を見てなにやら独り言を言っていた。
「うーん。ええんかい、くぉんの0って。」
0点!?
俺そんな悪い点取るような行動とったのか?!
それに「くぉんの」ってなんだ?!ちょっと苦しんじゃないか?



いかん、いかん。俺はかぶりを振った。
危うくマリアのペースにはまってしまうところだった。
あ、そうか!
マリアは俺が言おうとしている事が分かってて
恥ずかしくて必死に話題をずらそうとしてこんな事をしているのでは?
そ、そう思う事にしよう。
っていうかそういうことに決定〜☆(爆)
や、やばいまだ抜けてない。
ちょっと気分転換をしようと、ウェイターを呼んで二人分の食事を注文した。

そしてそのまま俺達はロクに会話もしないまま料理がくるのを待った。

しばらくして、料理が運ばれてきた。
料理を食べておなかが膨れればマリアも落ち着いてくれるだろう。

「じゃ、じゃあ食べようか、マリア。」
しかし、俺が料理を食べている間、マリアはそれを口にすることはなく、
俺の一挙一動を見ては、「一割二分五厘。」とか、「青。」とか、
「これは違うわね。」とか、「それはジェノサイドっぽいわね。(爆)」とか言っていた。

俺はまるで砂を食っている気分だった。

もうそろそろ俺はマリアのその手帳が恐ろしくなってきていた。
何が書かれているのだろう?今日のマリアの不可解な行動は一体?
完全に俺は混乱していた。

危うく俺は当初の目的を忘れかけていたが、もうこうなったらやけだ!
マリアが変であろうかなかろうが、俺はマリアを愛している!
この指輪を渡して俺の気持ちを伝えるだけだ!
あとはどうなろうと知ったことか!

俺は降魔戦争の最後の戦いに赴く時よりも強い覚悟で告白の口火を切った!

そんな俺の気持ちを察してか、店内にはまたあの「ピン!ピロリロリン!」
という音が鳴っていたが、覚悟した俺はそんなことに動じなかった。

「マリア!聞いてくれ!」

はっとして、マリアが顔を上げる。
「今日マリアに来てもらったのは、実は大事な話があるからなんだ。」

マリアは恥ずかしそうにうつむいてしまったが、今度はあの忌まわしい手帳を開くでもなく、
俺の話をじっと聞いてくれているようだ。
俺は安心した。やはりさっきの俺の予想通り、マリアは恥ずかしかっただけなんだ。

「マリア、もう君は俺の気持ちに気がついているかもしれないが、俺は君のことを愛している。」
マリアがこちらを見る。
マリアの頬は、いつもは雪のように真っ白な頬は、真っ赤に染まっていた。
「この指輪を受け取ってくれないか、マリア。結婚しよう。」
そういって俺は内ポケットから、マリアのため、この瞬間のため買った、銀で出来た指輪を取り出した。
「受け取ってくれるかい、マリア?」

マリアは黙ってこちらに手をさしのべた。
俺は少し震える手で、その薬指に指輪そっと差し込んだ。
マリアはその指輪を胸に抱くようにすると、こう言った。
「ありがとうございます、隊長。わたし隊長の気持ちお受けします。」

そういい終えるか否や、マリアは俺が贈った指輪を外すと、振りかぶり、
カーブの握りで指輪を店内の暖炉の中へと投げ込んだ!
指輪は奇麗な曲線を描き、暖炉の右隅ギリギリの所へ吸い込まれるように消えた!
突然暖炉のそばにいた客の一人が立ち上がり大きな声で、
「スットラぁーイク!ゲェームセッツ!」と言った。

するとその客の連れの二人が解説を始める。
「いや〜今のは素晴らしい投球でしたね〜、無一文さん。」
「そうですね、ahihiさん。今のマリア選手、投球フォームもしっかりしてましたし、
ストライクゾーンギリギリの良いところをついてましたね。」
店内は騒然とし、マリアのノーヒットノーラン達成を祝ってあちこちでウェーブが巻き起こっている。

何で?!(T-T)
マリア・・どうして・・。さっき「お受けします。」って言ったじゃないか・・。

するとヒーローインタビューを終えたマリアがこちらに戻ってきた。

「隊長あなたのおかげです、ありがとうございます。私もあなたを愛しています。」
じゃあ何で指輪を投げちゃったんだよー。

「結婚式、今から楽しみですね。」
だからなんで・・。

「どうしたんです、隊長?」
まあ、もうどうでもいいや。
マリアは俺が嫌いであんな事したわけじゃなさそうだし・・。
「いや、何でもない・・。行こうかマリア・・。」

そうして俺達は、六甲下ろしが吹き荒れる店内をあとにした。



「そういえば、あの手帳には何が書いてあったんだいマリア?」
「え、これですか?恥ずかしいんですけど、隊長にならお見せします。
その代わり、笑わないで下さいよ。」

そういうとマリアはあの青い手帳を差し出した。

その手帳にはなにかの絵が描かれていた。
それはどうやったのか知らないがきれいに色付けして描かれていた。
青い狸のような、得体の知れない、動物だろうか?妙に愛嬌があるヤツだった。

ページをめくってみたが、同じモノが延々と描かれていた。
いや?少しずつ違うポーズになっている。
「それはですね、隊長。こうやると・・、ほら動いて見えるんですよ。かわいいでしょう。」
マリアはそう言うとニコッと笑った。
「はは・・・そうだね・・・。」
俺はもう、どうでも良くなっていた。

あの手帳に書き込んでいた時のマリアのつぶやきは何を意味していたのだろうか?
それはあとになっても、ずっと分からないままだった。




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