ハロウィン大戦〜Venom Strike!〜(中編)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti026.osk.3web.ne.jp on 97/11/11 06:11:29

In Reply to: ハロウィン大戦〜Venom Strike!〜(前編)

posted by うぉーろっ君 @ tkti026.osk.3web.ne.jp on 97/11/11 06:08:45

>  大神の声など、もはや二人は聞いちゃいない。だからといってここから
> 逃げたら、その背中に鉄拳と鉛玉がたたき込まれるような気がする。
>  逃げ道、無し。
>
> 「……俺はただ、朝飯を食いに来ただけなのに……」
>
>  己の身の不幸を嘆く、大神一郎、21歳の青春である。

☆       ★       ☆


「まずはこれを食ってみてくれよ」

 カンナがオーブンから焼き上げたパイを取り出し、テーブルに無造作に置く。
ぱっと見は普通のパイだが、上に乗ってる緑色した寒天状のモノがなにやら
怪しい。

「カンナ、これって……?」

 おそるおそる尋ねる大神に、

「これが普通のパイを毒パイに変える、ヒミツのトッピングさ。さ、一気に!」

 陽気にカンナが答える。

「トッピングって……ピザじゃないんだから……」
「いいから!」
「はいはい……」

 こういうのはおそるおそる食べようとしたら、いつまで立っても食べることは
出来ない。だから大神は一気に口の中にブツを突っ込んだ。それを見て、
マリアも慌てて口に入れる。

(……しばらくお待ち下さい……)

「だ、大丈夫ですか、隊長……」
「ああ……マリアは?」
「大丈夫です……辛うじてですが」
「そうか、良かった……カンナ、これは一体……?」

 まるで甘柿と間違えて渋柿にかぶりついてしまった子供のように、二人は
それをなんとか飲み下すまで10分近くテーブルや壁を叩き、悶えた。
 あまりにも苦くて、不味い。

「あれはな、『ケール』とか言う薬草の絞り汁を寒天に染み込ませたものさ。
口当たりはともかく、すごく身体には良いはずだぜ」
「とてもそうは思えないわ……」

 カンナの説明にマリアが顔をしかめる。

「ケレル?」
「ケール! これを子供のおやつに毎日出せば、あたいのような健康優良児
になること間違い無しだぜ!」

 無意味にカンナがガッツポーズを取る。

「こんなモンを毎日食べなきゃならないと思うだけで、ストレスで胃に穴が
開くような気がするぞ」
「あ、そうか。そこまでは考えなかったなぁ」

 あっはっは、とカンナが豪快に笑う。

(おいおい。そんなアバウトなお菓子作りされたんじゃ、将来生まれるで
あろうカンナの子供は大変だな……)

 まだ見ぬ未来の住人に、心から同情する大神である。

「なかなかやるわね、カンナ。じゃ、次は私ね」

 そう言うとマリアは、厨房中を歩き回り、戸棚や冷蔵庫などから次々に
材料らしきものを集める。しかし……。

「うへぇっ! なんだぁ? この材料!?」

 カンナの疑問ももっともだろう。マリアがテーブルの上に揃えたものは、
人参、トマトペースト、脂身、ワインビネガー、塩胡椒、ケチャップと言った、
およそパイとはかけ離れたシロモノばっかりだ。
 でもなんとなく、大神には馴染みのあるものばっかりだ。

「……! そうか、これってボルシチの材料じゃないか!」
「ええそうです。覚えておいででしたか」
「ああ。ホントにこんなモンでボルシチが出来るのか? って材料だった
からね、印象深いよ。でも本当に、よくこんな材料で作れたよなぁ、ボルシチ」
「それは言わない約束ですよ」

 そんな約束してないよ。そうツッコミ入れたかった大神だが、ホントにやると
生きてここから出られなくなるような気がしたので、やめた。

「で、これをどうするんだい?」
「まず、普通にパンプキンパイを焼きます。もう既に出来たものを用意
してます」

 マリアがテーブルの下から既に焼いてあるパイを取り出す。物置き棚付きの
テーブルだったとは、今まで大神は知らなかった。

「用意がいいな」
「備えあれば憂い無しです。この上に、切った人参、トマトペースト、
ワインビネガーを無造作に乗せ、塩胡椒をぶっかけた後に脂身を
てんこ盛りにし……」

 口を動かしながら、言葉通りに食材を盛りつけてゆくマリアを、いや、
その手元のブツを大神とカンナが血の気の引いた顔で見守る。

「さらにその上にケチャップをこれでもかとばかりに絞り出して
出来上がりです。さぁ、ご賞味下さい!」

(いかにも胃腸に毒だ!!)

 大神とカンナの想いがシンクロする。今なら久流々破が撃てるだろう。

「出来上がりって……火は通さないのかい?」
「もう既に焼いてるじゃないですか」

 冷や汗流して尋ねる大神に、マリアがしれっと答える。

「いや、そうじゃなくて……」
「大丈夫。人参は生でもいけます」
「そうですか」

 大神が諦めの表情を浮かべる。これ以上の反論は無駄だと悟ったようだ。

「ちょっと待ってくれ。脂身も生だぜ。しかも冷凍庫から出したてで
こちこちだし」

 カンナの抗議に、

「極寒のシベリアのイメージを盛り込んでみたのよ」

 マリアはにべも無い答えを返す。

「名付けて、『ウクライナ風ボルシチックパンプキンパイ』!!」
「変な形容詞作るなよ……」
「いいから、早く食べてみて下さい」
「わかったから、懐に手を入れるのやめて……」

(……しばらくお待ち下さい……)

「死ぬかと思ったぜ……牛殺しの方がよっぽど楽だ……」
「悪魔王の存在がかわいく思える……」

 床に跪き、手で口を押さえながら、カンナと大神がようやく感想を口に出す。
言葉と言うより、呻きに近い声ではあるが。


<下へ続く>