ハロウィン大戦〜Venom Strike!〜(前編)



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投稿者: うぉーろっ君 @ tkti026.osk.3web.ne.jp on 97/11/11 06:08:45

 太正13年10月31日。東京銀座、大帝國劇場の朝。
 布団の中の離れがたいぬくもりと、それを精一杯の勇気ではねのけたときの
肌に染み込む寒さとの落差が、深まる秋と、きたるべき冬の到来を感じさせる
時期。
 そんな、誰もが毎朝迎える試練をくぐり抜け、空きっ腹を抱え、何故か
鼻を啜りながら食堂へと向かう青年が一人。
 劇場モギリ係兼雑用係、大神一郎である。

「う〜、ここんとこの朝の冷え込みで風邪でもひいたかなぁ……鼻水が
止まらないや。……まぁとにかく、腹減ったなぁ……」

 彼はまだ知らない。食堂で彼を待ちかまえている運命を。
 今日は万聖節前夜、ハロウィン。何が起きても不思議じゃない。

☆       ★       ☆


「こういうのはどうかな? 火薬を入れる」
「それは反則よ。ちゃんと人が口に出来るものじゃないと」

 食堂に入った大神の耳に、聞き覚えのある声での会話が飛び込む。
声は厨房の方から聞こえる。誰かが相談事でもしているのだろうか。

「厨房で相談? 妙だな。ちょっと行ってみるか」

☆       ★       ☆


「よおっ! 隊長」
「あ、隊長、おはようございます」

 そこにいたのはカンナとマリアだった。カンナは鍛錬のため、マリアはその
まじめで几帳面な性格のため、それぞれ朝は早い。

「おはよう。ところで二人とも、朝早くからこんな所で何やってんだ?」
「それだよ、それ」

 カンナが顎でしゃくった先に目を移すと、そこにカボチャが一つあった。
直径50�僂浪爾蕕覆ぁ�見事な大きさのカボチャだ。

「へぇ……こりゃすごいや」

 大神が感嘆の声を漏らす。が、ふと違和感に気付き、両手で持ち上げてみる。

「あ、あれ?」

 異様に軽い。これくらいのカボチャなら、大の男でも持ち上げるのに一苦労
のはずだ。下手すれば腰に「ぐきっ」とくる。なのに、指先に少し力を込めた
程度で持ち上がるとは。

「ん?」

 よく見ると、へたを中心に、なにやら丸く切れ込みがある。へたを摘んで
引っ張ってみると簡単に外れ、穴が現れた。蓋状になっていたのだ。その穴から
中が窺える。

「ありゃま」

 大神が少々間抜けな声を漏らす。カボチャの中は空っぽであった。それだけ
ではない。横に視点を移すと、穴が四つほどくり抜いてある。上部に二つ、
真ん中辺りに一つ、そして下の方に横に長く一つ。

「……顔?」
「ええ、お化けの顔です」

 大神の呟きに、マリアが補足する。

「ハロウィンって、ご存じですか?」
「……名前だけなら、なんとなく」
「その日、アメリカとかでは子供らがこういう提灯を作って窓辺に飾るんです。
そして、今日がその日なんです」

 マリアが微笑みながら、カボチャに手を当てる。

「そうそう、えーと、なんつったけな、『ギャグの大叔母さん』だっけ?」
「全然違うわ、カンナ。『Jack-o'-lantern』よ」

 一転して大マジな顔で、マリアがカンナに突っ込んだ。

「……まぁ、似たようなモンだろ」
『似てへん似てへん』

 大神とマリアが示し合わせたように手を顔の前で横に振る。

「ちぇっ。まぁいいや。あたい達が相談してたのは、このカボチャのくり抜いた
中身の使い道についてさ」

 拗ねたカンナがとっとと話題を変える。

「使い道って……料理法のことかい?」

 さすがに花組の中ではカンナに続いて食い意地が悪いと評判なだけ
あって、食べる以外の使い道はハナっから大神の頭にはないようだ。今現在、
空腹だからと言うこともあるだろうが。

「ええ、似たようなものです。ハロウィンと言えば、パンプキンパイは
付き物ですからね」

 そんな大神に、マリアが思わず笑みを漏らす。

「なんだ。もうパンプキンパイって決まってるんなら、相談なんて必要ない
じゃないか」
「甘いぜ隊長!」

 当然とも言える言葉を漏らす大神の顔に、カンナが人差し指を突きつける。
「びしぃっ!」とかなんとかいう感じの効果音でも欲しいところだ。

「ただのパンプキンパイで済ますだなんて、帝劇花組の名折れだぜ!!」
「……そうかなぁ……」
「私もそう思います。ですから、食べられることは食べられるけど、
どこをどうやったらこんなに不味くなるんだろうって言うコンセプトで
作ろうって事で話がまとまりまして」
「……まとまるなよ……」
「題して、『ハロウィン毒パイ研究会』! カッコイイだろ!?」
「……不毛な会だ……」
「そうだ! 隊長もアイデアを是非お願いしますね!」
「お、俺もぉ!?」
「そいつぁいいや!『三人寄ればもんじゃを食え』ってやつだな!」
「……それを言うなら『文殊の知恵』だろ、カンナ……」

 大神の声など、もはや二人は聞いちゃいない。だからといってここから
逃げたら、その背中に鉄拳と鉛玉がたたき込まれるような気がする。
 逃げ道、無し。

「……俺はただ、朝飯を食いに来ただけなのに……」

 己の身の不幸を嘆く、大神一郎、21歳の青春である。


<下へ続く>