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投稿者:
えんかいくん零式 @ slip202-135-63-71.kw.jp.ibm.net on 97/11/08 22:21:31
In Reply to: 万聖節の星空:前編
posted by えんかいくん零式 @ slip202-135-63-71.kw.jp.ibm.net on 97/11/08 22:19:19
きっぃいぃぃぃぃぃ
道化師の言葉にならない叫び声が、薄暗い庭の中に響く。押さえつけられたさくらは、身動きすらできない。道化師の細く、そして、冷たい指先がさくらのノドを締め上げる。
「まちがいない・・これは・・幽霊・・・荒鷹さえこの手にあれば・・・・」
さくらの意識が次第に遠くなりはじめる。薄まった意識の中に、突然、別の意識がなだれ込んだ。
「スペイン風邪ですって」メイドの一人がいう。「両親ともなんて・・・かわいそうねぇ」もう一人のメイドが答える。
そこは、この洋館の一室らしい。ソファーの上に一人の少女が座っている。金髪に青い目、透き通るような白い肌をした美しい少女だ。少女はただうなだれ、泣きつづけていた。やがて、少女は激しく咳き込む。
「まあ、ひょっとしてあの娘も・・・」「縁起でもないわ。もう給金も出ないみたいだし、こんなところには見切りを付けなくっちゃ」
二人のメイドの日本語が少女には分からないらしい。少女は再び激しく咳き込んだ。
記憶はさらに揺らめきながら、別のところへ流れてゆく。
「trick or treat」
少女はまだ幼い。道化師の扮装をさせてもらった少女がはしゃいでいる。
「trick or treat」
吸血鬼の格好をした父親が、少女をからかっている。何かのお祭りなのか。さくらにはそれは分からない。
「trick or treat」
魔法使いの扮装をした母親が、その様子を見て微笑んでいる。・・・やさしい笑顔
ぐああああああああああああぁ
道化師が激しく咆哮した。
「おう、そこにいるのはだれでい!」
突然の声に道化師はさくらの上から飛び退いた。門扉の側に立つ二つの人影。道化師はその影に向って身構えた。さくらは荒い息をしながら、月明かりに照らし出された二人を見た。
「さくらくん、大丈夫か!!」
「お・・・大神さん」
「この寒いのに幽霊とは、ちょいと時期外れだな」
「米田支配人・・・」
「さあて、幽霊さんのお手並み拝見といくぜ」米田はそういうと、杖を剣に見立てて、道化師に切りかかった。
ぶうん
確かに杖の一撃は道化師の眉間を捕らえたかに見えた。しかし、杖は道化師の体をすり抜けて、空を切っただけだった。道化師が再びさくらの方を振返る。
「大神。やはり、そいつが必要のようだぜ!」米田が大神に向って叫ぶ。
大神の手には霊剣・荒鷹が握られていた。
「さくらくん!!」
大神はさくらに向って荒鷹を投げた。突進してきた道化師が、さくらの顔に向って赤い爪を振り下ろす。さくらの顔を爪が捕らえた・・・と、思われた刹那、さくらの体はひらりと宙に舞っていた。空中で荒鷹を受け取ったさくらは、着地を待たずにそのまま抜刀した。
パシッ
荒鷹の切先が捕らえたのは道化師の仮面だった。
う、うぐううぅぅぅっ
道化師は仮面の傷口を押さえて身悶える。やがて、その傷口から青白い炎が噴き出した。それは霊剣・荒鷹が放った浄化の炎であった。炎は見る見るうちに道化師の体全体に燃え広がる。
パリッ
道化師の仮面が砕け散った。青い瞳がさくらを見つめている。それは、さくらが幻の中で見た、あの少女の顔であった。
「さあ、ここはあなたの居る場所ではないわ。安らかにお眠りなさい」
「・・ア・・・リガ・・・トウ・・・・・・・・・・」
少女の姿は、やがて浄化の炎に飲み込まれ、消えた。
異国の地に一人きりで死んだ少女の魂。その孤独と悲しみが、一瞬さくらの心をかすめ、そのまま夜空に向って登っていった。
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