第二幕



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投稿者: ditto @ ykha119.tky.3web.ne.jp on 98/3/14 00:31:30

In Reply to: 第一幕

posted by ditto @ ykha119.tky.3web.ne.jp on 98/3/14 00:29:52

(第二幕)
−サターン町奉行所−

サターン町奉行・遠山金三郎(以下)「そうか鴨居(プレステ町奉行)がお役御免になったか...。」
吟味方与力・脇坂(以下)「はい。遠山様の忠告を無視してソフト販売を続けた報いでございましょう。更に多くの被害者も出ております。当然と言えば当然かと。」
「あ奴にも、もう少し聞き分けがあればのう...。」
「去り際に『プレステ町奉行と言えば聞こえは良いが、縛られたことばかりで不自由じゃった』との捨てぜりふを残したと聞いております。全く武士の風上にも置けぬ奴でございます。」
「で、次のプレステ町奉行はどうなるのだ?」
「根岩鎮衛殿がお就きになられるものと思われます。」
「そうか、根岩殿は噂に聞こえし切れ者。良き人選と思うぞ。
それはさておき例の事件じゃが、どうなっておる?」
「はは、申しわけございませぬ。この脇坂が直接出向きますゆえ、暫しお待ちを...。」
「何をぼやぼやしておるか!事は一刻を争う。こうしている間にも被害は広がっておるかも知れぬのだぞ。」
「はは!ひらに!」




「義一、居るか?」
パーツ屋主人・義一(以下)「これはこれは、脇坂様。こんな店に足を運ばれるとは。」
「火急の用にて参った。先日、頼んでおいた治療法およびワクチンの開発はどうなっておるのだ?」
「そ、それが...。」
「事は急を要するのだ!そなたもわかっておろう。」
「も、申し訳ございません。全力を注いではおりますが、あまりに巧妙なプログラムゆえ、苦戦しております。」
「儂はお前に期待して託したのだ。御奉行とて同じ事。」
「お、御奉行様までもが!こ、この義一 身に余る光栄。任して下さい、1週間もあればなんとかいたしまする。」
「これ以上の犠牲者は出せぬ。一刻も早く仕上げるのだ。」
「ははあ。」


脇坂が帰った後で、

「とは言ったものの、正直頭が痛い...」
ゲーマーの金治(以下ゲ)「ちょっくら邪魔するぜ。」
「ああ、あんた確か1ヶ月ほど前に...。すまねえが、今取り込んでいる最中なんだ、またにしておくんな。」
「まあ待ちなよ。何かお困りの様子とお見かけしたんでね。訳を話してくれねえかい?力になれるかも知れねえぜ。」
「しかし、素人のあんたに話してもなあ...。」
「話してみなきゃわかんねえだろ?」

「患者の治療法については、幕府の医薬方の協力を得ているのであと少しで出来上がりそうなんだが、頭が痛いのはワクチンの方だ。
...これがその問題のプログラムだが、実に巧妙に出来ている。」
「どれどれ?な、なんだこの"00"の連続は?」
「そいつが厄介のタネだ。本体プログラムを守るバリアの役目を果たしている。どんな排除信号を送ったとしても、そいつで本体プログラムがガードされているんで効き目がねえ。」
「うーむ...。」
「しかも、本体プログラム自体暫くすると中身が変わっている。これは自分自身を書き換えるようになっているんだな。いくらワクチンソフトを作っても相手が姿を変えるんじゃあ歯が立たねえ。」
「でも"00"の膜で覆われているんだったら、それを見つけて丸ごとおっぽりだしちまえばいいんじゃねえのかい?」
「そう簡単に言うない。"00"膜は本体プログラム自体が生み出すモンだが、他の正規なプログラムをも取り込んでバリアを張っちまうから、"00"膜で覆われたモノ全てをデリートすると、ゲーム自体がおかしくなっちまうんだ。」
「一筋縄じゃいかねえか...。」
「一昔前なら優秀な機械語プログラマーが五万といた。ワクチンの開発も今よりは容易だったかもしれねえ。しかし、今となっては数少ねえし...!!!」
「どうかしたのかい?」
「小文太だ、そうだ小文太ならできるかもしれねえ!」
「小文太!?」
「前に話したことがあるだろ、真吉が殺された晩に尋ねてきた行商親子のことだ。」
「ああ、そう言えば。」
「ま、...待てよ!」
「?」
「...この配列の芸術性、1bitの無駄もない完璧な構成...間違いねえ。これは小文太のだ。小文太がこのプログラムを作ったんだ!」
「落ち着いて訳を話してくれねえかい?」

「小文太と俺とは、昔とあるソフトハウスで一緒に仕事をした仲なんだ。俺も多少はプログラムには自身があった方なんだが、とても奴には適わなかった。奴はいつも不可能を可能にしてた。とてもこんなハードのスペックじゃあ出来ねえと言われてたことを見事にプログラムで解決していたんだ。しかも、そのプログラムには芸術的な美しさも兼ね備えていた。
しかし、ハードが8bitから16bit、32bitへと進化していくにあたって、奴の存在価値は段々と薄れていったんだ。考えてもみな、大した知識がなくてもプログラムが組める時代に、奴のような職人が必要とされるか?奴はツールも何も無い時代に生きてきた。一人で全てのプログラムを組み、一本のソフトを創り上げてきた男だ。
だが今の開発環境は違う。ハードのスペックが昔じゃ考えられないほど上がり、ツールも有り余まっている。この時代に個人のプログラミングの技術の差はないのさ。となると、ゲーム自体よりも演出がモノを言う時代に変わっていった。そして...奴は次第に時代の流れに取り残されていった。
それでもまだ奴の1バイトの無駄のないプログラムは、限りのあるメモリー容量の中では重宝された。しかし、それもバンク切り替え式、そしてついにはCD-ROMが主流になった時点で無用の長物と化したのさ。」
「てえことはその小文太とかいう奴は、今の世を恨んでこんなことをしでかしたってえのかい?」
「ああ、信じたくはねえが...。」
「しかし、これほどの大それたこと、一介の人間じゃできやしねえ。」
「だがこれだけの代物、小文太以外には...。」
「誰かに操られているか、唆されているか、」
「ああ!」
「どうしたい!?」
「小文太の息子の大二郎です。今通りがかったのは!」
「なんだってい?あの子がかい?」