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投稿者:
高山 比呂 @ ppp-y104.peanet.ne.jp on 98/3/08 00:55:05
In Reply to: Re: 『土星』 第十七期:「白の正則」〜灰色の部屋〜
posted by 高山 比呂 @ ppp-y104.peanet.ne.jp on 98/3/08 00:53:36
居間。
「ねえ、今日はどこかにお出かけするの?」
白いよそ行きの服を着せられた少女は、瞳に星を浮かべながら母親の右袖を掴んだ。
「・・・うん、とってもいいところよ」
満面とは言えないまでもそれに相当するような笑顔で母親は答えた。大人ならここで不安を抱くのだろうが、幼すぎた少女には、その奥に秘められたものを感じとることができなかった。
「わ〜い、わ〜い、おでかけ〜」
少女は鉄の柱を右手で掴むと、それを軸としてクルクルと走り回った。
「こら、ヨーコ、あんまりはしゃぐんじゃありません」
口元だけの笑い顔で、母親は少女を叱りつけた。
「は〜い」
少女はすぐさま立ち止まると、柱から離した右手を纏のように空に掲げ、笑顔でそう返した。
「おい、仕度はできたか」
少女の父親が、左手の開きっぱなしのドアから、こげ茶色のネクタイを締めながら歩いてきた。
「うん、はら見て」
少女は、各々の手で、各々の袖を持って、その場で回ってみせた。
「お〜、綺麗じゃないか。じゃ、行こうか」
ネクタイを締め終えた父親は、左手を少女の頭の上に当て、玄関へと向かった。
「ねえ、パパ、わたし、くっくもう1人で履けるんだよ」
少女は、右足を不器用な手つきで白い靴に押し込んでいる。
「お〜、凄いじゃないか」
父親は、右足のつま先をトンと鳴らしながら、その様子を見下ろした。
「でしょ」
少女は、月を見るような目つきで見上げ、満面の笑みでそう答えた。
3人はガレージの左端に停めてあった白い車に乗り込んだ。2分間のエンジン音の後、家の前の道を左に折れ、紫陽花の群を右手に見ながら、灰色の道を南へと下った。
車中では、それなりに家族らしい会話はあったが、助手席に座る少女だけが笑い顔で、後部座席の父親も、運転席の母親も、微笑み顔でしかなかった。
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