『土星』 第十七期:「白の正則」〜白いドアの側〜



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投稿者: 高山 比呂 @ ppp-y104.peanet.ne.jp on 98/3/08 00:58:52

In Reply to: 『土星』 第十七期:「白の正則」〜白い建物〜

posted by 高山 比呂 @ ppp-y104.peanet.ne.jp on 98/3/08 00:56:44

白いドアの側。

「五十嵐君、本当に自分の子供で試すつもりか?」

白のコートを着た初老の男が父親に向かって、少し強い口調で尋ねた。

「試す?いえ、決してヨーコを実験台として使うわけではありません。これがあの子のためなんです。将来降りかかるであろう火の粉をヨーコ自身の手で払って欲しいんです。」

「それにしてもだね・・・」

「奴等に対して、私達は無力なんです。もし私がこの体を提供しても妻と子を守る自信はありません。そう、この力を手に入れても結局守れるのは自分だけなんです。いや、自分しか見えなくなるといった方がいいのかもしれません。ともかく、ヨーコには生き続けていて欲しいんです」

「ケイコさんも、本当に良いと思ってるんですか?」

男は五十嵐の左隣にいた母親の方を向き、目を見開いて尋ねた。

「ええ、もう決めたんです。あの子自身のためになるならばって」

「ですが、あんなに幼い体では危険が伴いますし・・・」

「でも、信じてますから。主人のことも、あの子のことも」

「いや、それでもですね・・・」

「博士、では早速始めましょうか」

五十嵐は、睨みのような目つきで白のドアを開けると、そう言った。

「・・・そう、だな」

白い手術台の上に横たわる白い服を着た少女。

「愛しき神の手よ、この子を抱き寄せたまえ」

白い光に包まれ天へ浮かび上がった少女の背中に、3人の天使達がそっと翼をつけた。

−Kyrie Eleison Christe Eleison−