ショート・ショート 『君を幸せにする』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p10-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/10/18 16:32:14

 池袋駅構内……ざわついている。いつ来てもそうだ……人が多いし、みんなやたらめったらセカセカ動いて、疲れやしないかって心配になるぐらい足早に歩いている。
 最近発売された、有名なバンドの新曲を聴きながら、僕は柱に寄りかかって彼女が来るのを待っていた。
 僕達が付き合い始めてから、まだ二ヶ月かそこらしか経ってない。いや……付き合ってるかどうかすら、怪しい。彼女はあくまでお友達感覚なのかもしれない−−そういや以前「自分には恋愛感情がないんだ」とか言ってたっけ−−ふとそんなことを考えて、僕はひょっとしてかなり馬鹿なことを考えていたんじゃないかと思って不安になる。
 彼女を信じる、そう決めたはずだ。
 そうだ……だから今こうやって僕は、ざわめきと靴音が溢れてるコンコースで、間抜けなツラして彼女を待ってる。
 彼女が言ってたっけ……「自分の目は恋してる人の目じゃない」って。僕には正直、そんな区別つかないし……人の目を覗き込むのは苦手だ。だから彼女の目が「恋してる人の目」なのかはわからない。
 でも……幸せ、なのかな? 恋してなくてもいい。僕を特別好きでいなくてもいい。ちょっとでも彼女が、この僕と一緒にいる時間、それを「幸せ」なんだって思ってくれたら……それが僕にとって、最高のご褒美なんだけど。
 あ……彼女だ。きょろきょろ周りを見回して……ああいう、何のためにやってるのかよくわかんない行動が可愛いんだよな。ま、他にも彼女には可愛い部分は一杯あるんだけど。
「ごめんなさーい……待ちましたぁ?」
 そりゃまあ、三十分も前からいますから。これは別に彼女が遅刻したわけじゃない、田舎に住んでる僕は、どうにもこうにも交通の便が悪く……待ち合わせ時間に極端に早いか、激烈に遅く待ち合わせの場所に着いちまうってだけの話なんだけど。
「じゃあ、行きましょうか」
 そう言って、僕の一歩前を歩いていく。彼女にとってここは地元みたいなもんだけど、埼玉県民(はっきり言って、コンプレックスを抱かせるに十分な身分だと思う……加須市なんて誰も知らないようなトコロに住んでるとなおさらだ)の僕にはここの地理はさっぱりだ。だから僕はいっつも、彼女の後をついて歩くようにしてる。
 え? みっともない、だって?
 ……仕方ないだろ、僕は方向音痴で有名なんだ。こんなごみごみした街、絶対に道なんか覚えられるもんか。
 彼女と最初に行ったのは、とあるデパートの屋上だった。開店直後なので誰もいない……閑散としている。二人っきりだ。
「……どうかしました?」
 僕は、自分でも気付かない内に、にやにや笑っていたらしい。ちょっとだけ気持ち悪そうに、彼女が尋ねてくる。
 でも……まあ、いいか。
 なんだか、妙にすっきりした自分がいる。
 僕一人じゃ到底考えつかなかった台詞……「まあ、いいか」……彼女のおかげで、考えついたけど。
 ようするに僕は、彼女と一緒にいて幸せなんだな−−。
 色々話しながら−−時折身振り手振りも交じるので、聞いていて飽きないんだよな−−僕は、そんなことを考えていた。
 僕が幸せだから……彼女も幸せになって欲しいんだよな。
 彼女が幸せで、すっごいいい笑顔を見せてくれたら……だから僕は、彼女に「幸せ」でいて欲しいんだよな。
「……好きだ」
 唐突に、口をついて出たのは、そんなクッサイ台詞だった。言ってから後悔する……あんまりに恥ずかしい。
「……はい」
 彼女は、とってもいい笑顔で……受け入れてくれる。
 だから……笑っていて欲しいから、君を……。
 君を幸せにする。

 −−END−−

 色んな事情で書くことになりましたぁっ、くぁーっ恥ずかしいよこの小説!! うっひゃーっ! さぶいーーっ!!
 ……○○○○(HN)さん、見てるかーっ、僕はやったぞーっ!!
 でわでわ、何か全身がむずむずしてる柏木でした。