サターンの金さん 第18回



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投稿者: 遠山金三郎 @ tpro2.tky.threewebnet.or.jp on 97/8/17 23:02:33

第18回

サターン町奉行所にて
同心・橋本(以下)「脇坂様、GESAとかいう団体の会長で景衛門とか名乗る者が、またやってきておりまする、如何いたしましょう。」
与力・脇坂(以下)「またか。決まって御奉行の居ないときにくるな。」
「では、お断りいたしましょう。」
「...、いや待て。一応、話は聞いておこう。」
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「これ、景衛門!今度は一体何の用じゃ?」
景衛門(以下)「これは脇坂様、お忙しいところ、誠にありがとうございます。」
「型通りの挨拶はもうよい。早う用件を申せ!」
「実はでございます。最近ソフトの売れ行きが鈍っております。」
「それで?」
「なぜかと調べておりましたらですな、どうも中古で安く買おうとする者が多く、買い控え現象であることがわかったのでございます。」
「ふむふむ、それで?」
「ここはぜひ遠山様のご尽力を得て、中古販売禁止のお触れを出していただきたく存じます。」
「これ、景衛門。お主何を考えておるのじゃ。」
「はっ!?」
「御奉行の性格からして、そんなこと承知はずがなかろう。悪いことは言わぬ、御奉行の怒りを買わぬうちに、退散されよ!特に今は、御奉行の機嫌が悪いのじゃからして。」
サターン町奉行・遠山金三郎(以下)「なにい!期限がないじゃとぉ!儂の前でその話をするとは良い度胸じゃ。」
「うわぉぅ!いつも一体何処から現れるのですかな御奉行は?」
「要らぬ詮索をせんでもよい。」
「こ、これは失礼いたしました。」
「それより中古販売禁止の件であるがな、儂は賛成じゃ。」
「ほれ!景衛門。いわんこっちゃない。御奉行も賛成と...えっ!?
「脇坂...、人の額に手を当てる遊びでもどこぞで流行っておるのか?」
「いや、こ、これは失礼仕りました。熱でもあるのではないかと...。」
「うつけ者!ひかえい!」
「はっ!はは!」
「これは御奉行様、さすがに思慮深い。御奉行様の力を得て、この景衛門百万の味方を得たような気分でございまする。そもそもゲームソフトというもの、クリエイター達の血と汗と涙の結晶でございます。それをこともあろうに、安く仕入れ安く売ろうなどとは言語道断!著作権法違反に該当すると思われまする。」
「しかし御奉行、一体どうした風の吹き回しでございますかな?いつもなら、真っ先に反対されるような内容でございますのに。」
「昨今のゲームソフトの販売不振。これが中古ソフト流通のせいだということは、少なからず真実であろう。メーカーの収益が下がれば、次のソフト開発に投資できる金も減る。その結果、手抜きゲーばかりとなれば、より一層ソフトの売上は落ちる。これすなわち悪循環じゃ。中古販売を禁止する事で、この悪循環を断ち切れるならば、儂は喜んでお触れを出そう。」
「おありがとうございます。早速、協会のみんなに朗報を知らせて参りまする。具体的な話は、次の機会にどこぞの料亭でしとうございます。では今宵はこれにて。」
「あいや、待たれよ景衛門!まだ話は終わってはおらぬ。」
「は?細かいところの詰めの話は、どなたか下の方でもよろしいのでは?」
「そうではない。条件がござる。」
「じょ、条件!?」
「中古の販売は禁止する。しかし、それと引き替えにメーカーには、自社ソフトの買い取りを義務づける!」
「な、なんですと!そんなご無体な。」
「なにが無体であるか!町人はのう、僅かな日銭を貯めてソフトを買うておるのじゃ。それが高い値で買わされるわ、中身はクソゲーだわ、何処にも売れんわでは、彼らに対してどう顔向けするつもりなのじゃ。」
「しかし買い取り義務とは殺生な。」
「何も販売価格で買い取れと言っておるのではない。ソフト内容は時が経つに連れ陳腐化するからのう...。うむ、たとえばの話であるが、発売から1週間以内では販売価格の7割で買い取るべき。」
「そ、そんな、7割と言えば、メーカーの卸値とほとんど変わりませぬ。」
「1週間と言えば、消費者が買ったソフトに怒り、騙されたと思って叩き売りに来る頃じゃ。騙した消費者には、お主らの収入をそっくりそのまま返す、当然のことじゃ。後は1ヶ月以内は5割、6ヶ月以内は3割程度としようか。」
「うぐぐ...、しかしそれはいくらなんでも厳しいお定め。もう少し何とかして頂けぬものでしょうか?」
「先ほども申したように、町人はさほど裕福ではない。中古の売却ができぬとあれば、財布のひもが堅くなってしまい、逆にソフトが売れなくなってしまうことは充分考えられる。これくらいの保証は少なくとも必要ではないのか。それにソフトを売却した金が、次のソフトを買う金になるわけでもあるしな。」
「さ、左様でございますか。」
「それにもう一つ条件がある。」
「こ、この上一体何を?」
「ユーザーが欲すれば、いくら古いソフトであっても、責任を持って供給するべし。」
「そ、それはある程度のロットがあれば...。」
「たとえ1本でも供給するのじゃ。」
「そんな無茶な!」
「お前らの論理で言えば無茶かも知れぬ。しかし、中古市場は今挙げた2つの機能を果たしてきたのであるぞ。」
「うっ...」
「中古市場というのはのう、お主らのソフトメーカーの独善的な行為を補完するものとして必然的に発生してきたものと思うぞ。今のお主らによっては、うざったいだけの存在としか見えぬとは嘆かわしい。」
「...」
「今挙げた二つの条件を満たす自信があれば、またここに足を運ばれよ。お主の望み通りのお触れを出してやろうではないか。」
「はっ、...お、恐れ入りましたでございます。」
「のう景衛門。聞きたいことがある。お主らは一体何のためにソフトを創っておるのじゃ?」
「な、何のためと申されますか?」
「生計をたてるためか?確かにそれもあろう。しかし利潤追求だけが己らのよろこびではあるまい。」
「...」
「自分の創ったソフトでより多くの人を楽しませたいからではないのか。ユーザーを楽しませること、喜んでもらえること、これが基本であろう。はじめにユーザーありき。この原点に立って戻って今一度己らの行動を見直してみよ!さすればいままで見えてこなかったものも見えてこよう。」
「み、見えなかったものとは?」
「そこまで言わせたいか、この儂に!では言ってやろううぬの愚かさよ!
「し、失礼をばいたしました。この景衛門、御奉行様の言葉、骨身にしみてございます。」
「わかればよい。仏の顔も3度までという諺もあるが、残り1度はないようにしてくれないか。でなければ、こっちも体はもたんからな。」
「へへえ!」
「相も変わらぬ見事なお裁き!ほれぼれいたしまする。」
「これにて一件落着!」

(注)この作品はフィクションであり。登場する個人・団体名は、実在のものとは何ら関係ありません。