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投稿者:
ふみちゃん @ a026003.ap.plala.or.jp on 98/1/19 12:50:04
In Reply to: OVAについてなんですが。
posted by しこ普及委員会会長さわだです @ pc023195.ppp.waseda.ac.jp on 98/1/19 06:27:30
すんげえでっけえ感想文(読んでて目が痛くなってしまった)送ってくださった、
さわださんへのオトシマエのショートです。知らない人は知らない。お許しを。
(参考文献:花組野外公演・外伝 忘れた場合は一度読んでからね)
午前二時。
銀座の街灯りはとっくに消えている。
少し霧で煙っている、銀座の街。
帝国劇場の窓から漏れる光が、その場所だけをぼんやりと浮かび上がらせていた。
その一階の窓に人影が映し出されている。
薄手のカーテンで遮られて影絵のように人が佇む。
しこは給湯室にいた。
みんな汗だくになっている。
休憩をとらないと、さすがに持たない。
お茶でも飲もう、ということで稽古は一時中止となった。
お茶当番は、しこ。
無理やりやらされた。
みんなサロンにいる。
シュン‥‥シュン、シュン‥‥
「‥‥頼れる者は自分だけ‥‥ん?‥‥この香り‥‥」
振り向くと、入り口にマリアが立っていた。
シャワーを浴びたあとの聖水が香る‥‥聖母マリア。
しこはそう感じた。
花の香り。
あやめの花の香り。
「‥‥マリアの香り、か」
「‥‥‥‥」
「いつだっけ‥‥同じような状況で‥‥」
「‥‥シャワー室で、か?」
「あ、あははは‥‥サロンに行ってなよ、僕が持っていくから」
「ハアアアアアッ!!!」
「ごふっ!?」
静かな夜。
お湯を注ぐ音だけが聞こえる。
カ、カタン‥‥
しこはよろめきながらもヤカンを置いた。
トレーに紅茶の缶と、サーバを乗せる。
「う‥‥ん?‥‥や、やけに重い‥‥」
ふいに紅茶の缶を開ける、しこ。
あくまでじっと見つめるマリア。
「げっ‥‥カ、カビが生えてる‥‥ど、どうしよう」
日常の風景。
台所で炊事する自分とはまるで違う。
そこに、しこの日常があるような気がマリアにはした。
口元がつり上がる‥‥ふっ‥‥
棚の中を探しまくる、しこ。
しゃがんで‥‥下の戸棚を覗き込む。
背を延ばして‥‥上の戸棚を手で探りを入れようとするが‥‥とどかない。
隊長ではありえず、勿論モギリでもない、一人の居候がそこにいた。
そして見つめているのは、隊員でもなく、副司令でもなく、女優でもない、一人の傍観者だった。
「と、とどかない‥‥どうする‥‥」
「‥‥脚立を持って来ましょうか?」
「‥‥え?」
「脚立」
今度は、しこの口元が綻ぶ。
マリアの脚立、か‥‥悪くない。
「‥‥いいね」
「‥‥‥‥」
「ここで入れるか‥‥まってるよ」
「ハアアアアアッッ!!!」
「ごふっ!?」
マリアはゆっくりと歩き出した。
一階にある給湯室から大道具部屋へ。
自然に目が吊り上がって、キレてしまう。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
マリアはようやく給湯室に姿を見せた。
しこが振り向く。
マリアの顔がやけに赤い。
「?‥‥もしかして‥‥脚立探しまくってたとか?」
「‥‥‥‥」
「顔が赤いよ、マリア」
「‥‥‥‥」
マリアがしこに手渡す。
大型の脚立。
脚を開くと、濃いめの茶褐色に輝くゴキブリが隙間から出てきた。
「こ、これは‥‥な、なんという虫なんだ‥‥あーっ!?」
「‥‥どうかした?」
「と、止めるのが‥‥ない」
「‥‥停め紐‥‥ストッパーね‥‥どうしましょうか‥‥」
マリアは悩んだ。
目の前のおもちゃに待ったをかけられてしまった。
「織姫がいればなあ‥‥ん‥‥!‥‥そうだっ」
しこの目が輝いた。
「何か妙案が?」
「”それだ織姫<頼りに縄ないでーす>アウフィダズィン・百弐拾参メートル”、があったっ!」(注1)
「‥‥‥‥‥‥」
暇で暇でどうしようもなかった織姫が、その暇の末に編み出した刺繍紐。
命名はしこ。
この名前はどういう訳か織姫をいたく憤慨させ、その後のしことの仲は険悪になった。
fin.
(注1)auf Wiedersehen ! :独語における“さようなら”
(類)Leben Sie wohl !
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