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投稿者:
VR  @ 202.237.42.71 on 97/11/15 13:02:45
In Reply to: ハロウィン大戦・米田編/前編(長文)  
 posted by VR  @ 202.237.42.71 on 97/11/15 12:55:35
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 「貴様……!国の為に身を投げ打つのが,軍人たるものの 
 使命だろう!?これが,その形だとでも言いたいわけか? 
 部下に対して死んでこいと言える立場の人間の,それが 
 中将としての見解なのか!女子供もろくに動かせんで, 
 何が司令官か!!」 
 
  勢いよく怒鳴りつける男とは反対に、米田は何処か 
 哀れみにも似た口調で息をもらした。 
 
 「…………けえっ,馬鹿が……。」 
 
 「何だと……!」 
 
 「女子供,と言ったな。その女子供のお陰で,辛うじて生き存えて 
 いるのは誰だ?てめえがそうやって元気に吠えていられるのは, 
 誰のお陰だ!?……俺たちはな,彼女らに土下座したって,戦って 
 くれと言える立場じゃねえ。それを彼女たちは,自らの 
 身を挺して,帝都の為にと命を賭けてくれているんだよ。てめえら 
 みてえに,机上でしか物事を計れねえ連中に,彼女たちの苦労が 
 分かってたまるかってんだ!!」 
 
 「き……貴様……!」 
 
 「ガタガタぬかすんなら,てめえが光武に乗ったらどうだ?」 
  
 米田の表情は,いつの間にか豹変していた。その目はかつて, 
数々の部下に対して死んでこい,と命令したであろう,冷酷な目である。 
 
 「くっ……!」 
 
 男の言葉はそこまでであった。降魔の出現を逸早く予見し,数少ない 
有志のみでこの帝都を守った米田の名は,当時,軍部の操り人形といっても 
過言ではなかった天皇の耳にさえ届いていた。 
 
 対して,現在軍部の中核を構成する人間は,降魔の存在を否定していた者, 
米田の考えをあざ笑い,侮蔑した者,最後の最後まで予算の捻出を渋って 
いた者───。そんな連中が,米田の立場を左右できる階級に就けよう 
はずもなかった。事実上,当時の軍部内において,米田を除隊させる 
ほどの権限は存在しなかったと言ってよいだろう。 
 
 「……軍人さんよ。ここは劇場だぜ?客じゃねえんなら, 
 帰ってくんな。」 
 
 米田の言葉に対しても,男は無言のままで玄関口に向かった。 
そしてもう一度振り返り,米田に侮蔑の視線を投げかける。犬が 
勝てない相手にまで向ける睨みの視線,まさにそれであった。 
 
 男の姿が視界から消えると,再び米田の耳には,花組の面々の 
慌ただしく,それでいて朗らかな声が飛び込んできた。そして 
視界には,先ほどとは違って見慣れた男の笑顔が飛び込んでくる。 
 
 「米田司令?どうかしたんですか,こんな所で?」 
 
 男の声を耳にすると同時に,米田はいつもの温厚な 
表情に戻っていた。 
 
 「どうかしたのか,じゃねえだろう?おめえがいつまでたっても 
 帰ってこねえから,わざわざお出迎えーってやつよ。……ん? 
 ……大神い。おめえ,何で手ぶらなんだ?酒はどうした,酒は!?」 
 
 「えっ?……ああ,すいません。財布を,忘れちゃいまして……。」 
 
 「馬鹿野郎。それだからおめえは,いつまでたってもモギリなんだよ! 
 ほれ,さっさと行ってきやがれ!」 
 
  米田の言葉に弾かれた様に,再び男は帝劇の外へ駆けていく。 
 その背中が完全に見えなくなると,米田は誰に語るでもなしに 
 つぶやいた。 
 
 「大神……おめえは,どんな気持ちで刀を振り降ろすんだ……? 
 何を思って,引き金を引くんだ……? 
  彼女たちの苦労が分かってたまるか,だと?───他でもねえ, 
 この俺にだって分からねえんだよ……。」 
 
 部下に対して死んでこい,と命令する。何人部下が死んだかで, 
胸の勲章の数が変わる。米田にとっては,自分がこうして生き 
存えている事実そのものが,軍人としての何よりの屈辱であった。 
 
 「……戦場に行ってこい,と言う。行って,降魔を殺してこい,と言う。 
 ……その反面で,死なないでくれ,と言う……。」 
 
 米田は,帝都の為に戦う彼女たちの顔を思い浮かべ,葛藤の念に 
駆られてロビーのテーブルを蹴り上げた。 
  
「……都合良すぎるんだよ,てめえは!!」 
 
 今日,米田が見せた軍人としての最後の言葉は,誰でもない, 
自分自身に向けた侮蔑の言葉であった。 
                          (終) 
 
 
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 今回もハロウィンじゃない様な気がする(^^;;; 
 
 
  
 
 
  
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