ハロウィン大戦〜ある日の小さな出来事〜



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投稿者: 天下無敵の長文書き @ ppp035.tokyo.xaxon-net.or.jp on 97/11/05 01:28:48

予想通り、だーれも参加せんな。(^^)

でもまあ、せっかく書き上げたし、
長すぎるから自分のページに張ろうかともおもったけど、
こんな”ハズイ”もん乗せたら俺の品性を疑われるから(?)
ここに張ろう。もうしばらくすれば更新されるだろうし。

んだばはじまりはじまりー!!

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こんこん

扉をたたく音がする。

すでに夜もとっぷりと更けていた。

こんな時間に誰だろう、と思いつつ、大神は声をかけた。

「どうぞー、開いてるよ。」

.........返事がない。

「?、変だな。」

確かに人の気配はするのだが、

大神はしかたなく、自室の扉のほうまで歩いていく。

「誰?」

「とりっくおあとりいと!」

 扉を開けると、そこには奇妙な人影が立っていた。
 
 身長は、2メートルぐらいだろうか。頭はカボチャでできていて、ご丁寧に
目の穴とぎざぎざの口の穴が笑みの形に開けられていた。首から下は、
シーツのような大きな白い布地で覆われていて、性別すらも判然としない。
右手には、大きなまっ黒い鎌を持っている。

「...は?」

 さすがの帝撃隊長も、あまりに異様な風体に、二の句が継げなかった。

「とりっくおあとりいと!」

 カボチャ頭が繰り返した言葉で、ようやく我に返った大神は、とりあえず
事態を把握しようと自分を落ち着ける。

 とりあえず、害意はないようだ。右手の鎌の刃はつぶしてあるようだし、
隊長室の前から一歩も動こうとしない。もしこれが魔操機兵だったら自分は
もはや生きてはいなかったろう。

「とりっくおあとりいと!」

 みたびカボチャ頭が繰り返した言葉の意味はよくわからなかったが、
その声音には感情がこもっていない。と、いうことは...

「また紅蘭の発明品か?」

「正解や、さっすが大神はんやなぁ。」

 くぐもった声と共にカボチャ頭の後ろから現れたのは、いわずと知れた
帝劇一の発明娘、李紅蘭、のはずだが...

 一瞬、大神にはそれが誰だかわからなかった。

 なぜなら、彼女はキツネのお面をして、和服の白装束に身を包んでいたし、
いつもは三つ編みにしている髪もおろして、ざんばらにしている。

 だが、お面のせいでくぐもっているとはいえ、彼女の声には機械を通した
感触がない。まぎれもなく紅蘭の肉声だったので、とりあえず大神は
彼女に説明を求めることにした。

「なんなんだい?これ。」

「これはうちの新発明、”はろうぃんくん”や! 小型の蒸気演算機を
 内蔵しとるから、状況に応じて、あらかじめ入力されている台詞を
 使い分けることができるんやで。ほかにも...」

 長くなりそうだ!と察した大神は、あわてて話題を変える。

 時々紅蘭は、発明の説明に夢中になって、本来の用事を忘れて
しまうことがあるのだ。

「ふーん、すごいんだね。でも何でこんな妙な格好にしたの?
 これじゃぁまるで...」

「まるで?」

「まるで、お化けみたいじゃないか。」

「そう!それや!! おばけや!!」

 お面をとった紅蘭は、我が意を得たり!
とばかりにうれしそうな表情を見せる。

「ひょっとして、お化けが作りたかったの?」

 どうも、よくわからない。

「いやな、マリアはんに聞いたんやけど、アメリカとかの外国やと、
 いまごろは”はろうぃん”とかいうお祭りなんやて。その時にはど子供達が
 こんなような」

 といって、カボチャ頭を見上げる。

「カボチャに顔の形彫ったお面かぶって、人のうち行って
 ”とりっくおあとりいと”って玄関先で言うんやて。」

「ふぅん、変わったお祭りだな。そういえば、士官学校で習ったような気もする。」

「へぇ、士官学校って、そないなことも勉強するんか?」

 今度は紅蘭が驚く番だった。

「というより、教官だった人がこの手のことに詳しくてね。
 講義の合間に話してくれたんだ。」

「おもろい先生やね。」

「うん、あの人の講義は一番おもしろくてね、俺たちの間でも人気が
 あったんだ。」

「ふうん...なぁ、大神はん?」

「なに?」

「海軍に、帰りたいっておもうこと、あらへん?」

 いきなり何を、と言いかけて、紅蘭を見た大神は少し驚いた。

 いつも、少しおどけた雰囲気を持っている紅蘭が、眼鏡の奥から
真剣なまなざしを投げかけていたからだ。と思ったら

「あ、あほ!何見つめとんねん。」

 いきなり頬を染めて目をそらしてしまった。そのまま紅蘭は言葉を続ける。

「お、大神はんは、海軍士官学校を首席で卒業しはった。そのまま行けば、
 海軍の偉い人になって、もっと待遇のいいとこに勤められるはずやった。
 でも、この帝劇に来てからの大神はんは、一応特殊部隊の隊長やけど、
 戦闘と訓練のとき以外は、モギリや。どこにでもいる、劇場のしがない
 キップきり。朝から晩までこき使われて、いいことなんかあらへんように
 見える。でも海軍にいたなら、もっと楽で、たくさんの部下を使えたはずや。
 それに...」

「...」

 大神は、ただ黙って紅蘭の話を聞いている。

 はじめは照れ隠しだったのだろう。しかし早口でまくしたてているうちに、
紅蘭の本心が溢れてきた。海軍での、士官学校首席という経歴で、約束されて
いたはずの地位と名誉、それと大神の現状をひたすらならべたてて、そして
だんだんに声が小さくなっていく。

 いつの間にか、眼鏡の奥の紅蘭の眼はうるみ、いつもは好奇心と探究心に
輝いている紫色の美しい瞳には、かすかな不安の色が見えかくれしていた。

 大神は、ただ黙って、優しい瞳で紅蘭を見つめながら話を聞いている。

 矢継ぎ早に繰り出していた言葉も品切れになったらしく、口をつぐんだ
彼女と大神の間に、静かな、あまりに静かな空気が流れた。

 なけなしの勇気をふり絞り、消え入りそうに「うちらの所に来たこと、後悔
してへん?」つぶやく紅蘭の声は、かすかに潤んでいた。

 彼女はもはや、大神のほうを向いていることすら我慢できなくなって、
くるりと後ろを向いた。

 怖かった。

 どんなに強大な敵より、どんなに禍々しい魔物より、大神の次の言葉が怖かった。

 いま、この帝都の平穏を守り、幾多の悪をけ散らしてきた少女を支配して
いるのは、ただ、

”自分がこの人に、必要とされていなかったらどうしよう。
 この人の重荷になっていたらどうしよう。
 この人に、嫌われていたらどうしよう”

という、不安だけだった。

 そして、大神はただ、目の前の小さな背中を守ってあげたかった。
一番大切な、少女の背中を。

 不意に、紅蘭は後ろから優しく抱きしめられた。

「お、大神はん!?」

「紅蘭?前に言わなかったっけ。”嘘と納豆は大嫌いだ”って。」

「な、なんやのいきなり!」

 真っ赤になった紅蘭はしかし、大神の手を振り払えなかった。

 この手を離したら、彼が遠くに行ってしまう、そんな気がした。

「...た、確かにゆうたけど。」

 しどろもどろになりながらも、答える。

「あのとき、俺は言ったよね。
 ”俺は紅蘭のことが大好きだ。絶対に嘘は言わないよ”って。」

 紅蘭は、今度は耳まで赤くなってうつむいてしまったが、消え入りそうな声で

「...うん」とだけ答える。

 大神も赤くなりながら続ける。

「俺はここに来て、本当によかったと思ってる。ここに来たおかげで、
 花組のみんなや、米田長官や、あやめさんや、
 何より、君に会うことができた。」

「....」

「もう、いなくなってしまった人もいるけれど、それでもここに来なければ、
 出会うことはできなかった。覚えていることはできなかった。」

「...大神はん」

「俺は、ここに来て本当によかったと思っている。
 後悔なんか、してないよ。」

 紅蘭は、ただ黙って何度も何度もうなずいた。本当の所は涙と嗚咽を
こらえるのに必死で、ただうれしくて、言葉が出せなかった。

 いったん紅蘭から離れた大神は、自分の部屋かの小さな引き出しから
白いハンカチを持ってきて、紅蘭に差し出した。

「だから、何も怖がることはない。不安がることなんかないよ。
 ほら、いつもの紅蘭みたいに元気に笑ってくれよ!」

 大神の手からハンカチを引ったくると、紅蘭はまた後ろを向いてしまった。
涙でぐしゃぐしゃのこんな顔をこの人に見られたなんて、恥ずかしくて
顔から火が出そうだった。

 メガネをとってごしごしと顔をふいて、嗚咽をむりやりひっこめる。
今の紅蘭には、眼鏡をかけ直して「ありがと」と言ってハンカチを
返すことしかできなかった。それでもすぐに後ろを向いてしまう。


 しばらく、紅蘭が落ち着くのを待ってから、ぽつりと大神は言った。

「もう、士官学校時代の話はしないよ。」

 びくっと身を震わせてから、紅蘭は勢いよく大神に向き直った。

「ううん、聞かせてぇな!」

 自分でもびっくりするくらいの声で言ってから、あわてて声のトーンを落とす。

「うち、士官学校で大神はんがどんな事してたか知りたい!
 どんな人と会ったか知りたい!
 どんな勉強しとったか知りたい!」

「でも...」

 戸惑う大神に、紅蘭は大きく首を横に振って見せ、とびきりの笑顔で言った。

「うち、大神はんのこと、もっと知りたいんや!」

 その笑顔に、ふっと笑みを漏らし

「わかった。話してあげるよ。
 ここじゃなんだから、テラスへ行こうか。」

「うん!」

 そして二人は、カボチャ頭をともなってテラスへと向かった。

「...紅蘭、こいつなんとかならない?」

「ええやん。気にせんといて。」

「...そう。」

 テラスからは、いつものように銀座の町の夜景が見下ろせた。時間が時間な
だけに、そろそろ車通りもなくなって、ガス灯の明かりが路地を彩っていた。

 そして二人はさまざまなことを話した。

 士官学校時代の友人のこと、教官のこと、厳しかった規則のこと、
夜中に抜け出して町にでたこと。

 時には笑い、時には身ぶりを交えたおしゃべりは時間のたつのを忘れさせ、
いつしか劇場の消灯時間も過ぎ、窓から差し込むかすかな明かりの中で、
二人はただ、町並みを眺めていた。

 不意に、大神が紅蘭の肩に腕を回した。紅蘭も大神の肩に頭を預ける。
そして二人の背後には、静かに”はろうぃんくん”が立っていた。

「大神はん?」

「うん、なに?」

「”とりっくおあとりいと”って、どういう意味なん?」

「知らないで使ってたのかい?」

 苦笑する大神に、紅蘭はすねて見せる。

「だって、マリアはんたら意味教えてくれへんのやもの。
 まあ、聞かなかったんやけど。」

「そうか。”トリックオアトリイト”っていうのは
 ”お菓子をくれなきゃいたずらするぞ”という意味なんだ。」

「ふうん。」

 言いながら眼鏡をはずす。

「...大神はん?」

「なんだい?」

「大神はん、おやつくれへんかったな。」

「まあ、持っていなかったからね。」

 紅蘭が、ふふっと、笑みを漏らした。

「なぁ、大神はん。」

「うん、なんだい?」

「さっきの言葉、もう一回言ってくれへん?」

 少し赤くなって、大神はつぶやくように言う。

「俺は、紅蘭が大好きだ。絶対に嘘は言わないよ。」

「とりっくおあとりいと」

 言って、紅蘭は大神の頬に口づけした。


 窓の外から差し込む光の中には、寄り添って座る二人と、無言で突っ立って
いるカボチャのお化けが照らし出されていた。

 そして、二人はいつまでも、銀座の町並みを眺めていた。

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あーハズい、書いてて背中がかゆくなったぜ。

一応紅蘭のエンディングの後、ということで。
その他キャラ(失礼)のファンのかた、ごめんしてください。

大神君て浮気ものと言われるけど、それはプレイヤーの方だと思うし、
もしかしたら、こんな風に決めた子には一途かもしれないな。

つーぎは、誰で書こうかな。(浮気もの)(^^;