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投稿者:
VR  @ 202.237.42.72 on 97/7/08 12:06:19
 今夜は星が見えそうにないよ───空を見上げたまま、俺は 
言葉を続けた。アイリスは当然、ご機嫌ななめの様子。 
「せっかくの“タナバタ”だったのに…。」 
 そう、今日は七月七日。七夕の特別公演も終わって、俺と 
アイリスは今テラスにいる。しかし夜空は雲に覆われ、天の川 
どころか一つの星も見えやしない。アイリスは七夕を知ったばかりで、 
残念がるのも無理はない。しかし俺は、天気に恵まれなかった七夕を 
何度も経験している。正直、今回もあまり期待はしていなかったのだ。 
 「アイリス、つまんない!お星様、見えないもん…。」 
 「…今夜、十二階で星の鑑賞会があるはずだったんだけど…それも中止に 
 なっちゃったみたいだし…。」 
 浅草にある十二階───正式名称『凌雲閣』。そこで今夜は、七夕の 
行事が行われる予定だった。しかし空はご覧の通り。「雲」をも「凌」ぐ 
凌雲閣も、さすがにどうにもならない。ただ、露店は予定通りに開かれて 
いるらしく、これだけ離れていても浅草の方角は明るく見えた。銀座の街も、 
まだ眠ってはいない。ふと、こんな言葉を思いだした。 
 「…“汝、雲を大地として街を見上げよ。そこには人々が造り出した 
 星空が広がるだろう”…。」 
 「?何それ、お兄ちゃん?」 
 「そんな事を言っていた人がいたんだ。こうやって…。」 
 俺は手すりに背を向けてもたれかかり、そのまま視点を後ろにやった。 
アイリスもそれを真似ると、 
 「!……うわあ……!」 
 どうやら少しは気に入ってもらえた様だ。先ほどまでの街の光は、天の 
星へと移り変わり、キラキラと瞬いている。銀座を行きかう車の灯は、あたかも 
天の川のごとく流れて見えた。 
 「ちょっと首が疲れるけどね。…でも、今夜こうして星を見ているのは、俺たち 
 二人だけかもしれないね。」 
 アイリスが笑った。俺が顔を上げても、アイリスはまだそのままの姿勢で星を 
見ている。そうして、アイリスは星を、俺はそんなアイリスを、しばらく眺めていた。 
 …曇り空というものは、時間を全く感じさせてくれない。今、何時ごろなんだろうか。 
ふと気がつけば、アイリスは俺の服を引っぱりながら、眠たそうな目をこすっていた。 
“そういう時間”らしい。 
 「アイリス、もう寝ようか。明日も公演があるんだし…。」 
 「…うん。……今日はありがとう、お兄ちゃん。」 
 そう言って、アイリスはぱたぱたと自室の方へ駆けていった。 
 明日の公演───七夕の特別公演は、二日に渡って行われる。何でも明日は、公演に 
来てくれたお客さん全員に、七夕の特製ブロマイドを配るらしい。俺は椿ちゃんに、それを 
手伝う約束をさせられてしまった。忙しくなりそうだ。 
 そう、アイリスに一つ言い忘れた事があった。十二階での行事は、一日延期して明日の晩に 
行われるんだっけ。明日の公演がある、って事で今夜は誘わなかったんだけど。誕生日には特に 
何もしてやれなかったし、明日はアイリスと二人で出かけようか。でも、他のみんなに聞かれたら、 
また冷やかされるんだろうな───。 
 そんなことを考えている自分がおかしくて、思わず声を出して笑った。そうしていると、この夜空も、 
テラスも、そこにいる自分も演劇の一部のように思えてきて、また笑った。 
 
 「明日は星が見えるといいね…。」 
 もう夢を見ているだろうアイリスと、今日、この空を見ていた全ての人へ。 
 
 もう一つ、アイリスと、この空を見ていた全ての人と、そして何より明日一日、 
自由の身にはなれそうもない自分自身に、 
 
 「……おやすみ。」 
 
 
                       (つづく) 
 
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 星が見えんかったよー(それが言いたいだけ)。もう7/8になって 
ますし。全国的にダメだったんでしょうか? 
見えた人は何をお願いしましたか?『グランディア・プレリュードがもらえますように』? 
  
 「…明日は星が見えるといいね…。」 
 …あのー、何か今日も雨みたいですけど…(T.T) 
 
 
  
 
 
  
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