投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ ppp98c7.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/3/02 18:41:32
In Reply to: Re: 第十六期 『終局・始動』 其の二
魔王星──目に見えぬ星、存在すら知られぬ未知の空間。 月から地球に向かう飛行機は、結局何事もなく空港に着陸した。乗っている間中、何かあるのではないかと内心穏やかでなかったメイファとエリーは、あまりにあっさりと到着してしまったので、思わず拍子抜けしてしまった程だ。しかしレイの表情は終始厳しいままだったので、二人の気はそれほど安らぐことがなかった。 空港の中は、予想通りがらんとしていた。これで経営が成り立つのかと不思議になる程人気がない。ぽつりぽつりと、ロビーに僅かな人影が見えるぐらいだ。それらも時間が経つと何処かへと消えて行き、三人は空港の中に取り残された。 並んで歩いていても、レイは周囲を厳しく警戒しているようだった。話しかけようとするが、その度に意気が挫かれる。何とはなしにエリーの方をちらりと見やると、彼女はどうしようもないとでも言いたげな素振りで肩をすくめた。 ──どうしたっていうのよ。 メイファは深く息を吸い込んだ。意を決して、隣を歩く少年に話しかけようとしたその瞬間。 乾いた音が響き、時間が止まった。 (……何?) 一瞬、メイファは何が起こったのかわからなかった。 乾いた音──過去に何度か聞いたことがある。あれは銃声だ。 エリーの喉から飛び出した悲鳴に包まれて初めて、彼女は何が起こったのかを理解した。 「レイッ!!」 少年の腹部から、鮮血が溢れ出ていた。彼は撃たれたのだ。 「ま、さか……弥生が、動く、とは──ね……」 苦しげに呻くレイ。そんな彼を見下すようにして、いつの間にか現れた女性が、三人の前に立っていた。 「レイ=シオン──D級抹消指定。S級任務完遂に影響なし、メイファ・ノーブル捕縛の任務を最優先します」 ぎこちなく機械的な呟きは、あまりにも無機質で冷たい。栗色の髪をポニーテールにしたその女性は、メイファの腕をがしりと掴んだ。 「ちょっ、嫌!! 止めて! 離してよ!!」 必死に抵抗するが、華奢な外見とは裏腹に、女性の力は恐ろしく強かった。メイファの力では、到底ふりほどくことなどできはしないだろう。 「ちょっと、やめなさい!! 離しなさいよ!!」 エリーが女性の腕を掴み、何とかメイファを助けようとした。しかしどれほど力を込めても、女性の指一本動かすことすらできない。女性は自分の腕を掴んでいる少女を冷たく一瞥すると、メイファにしか聞こえないほどの小声で独白した。 「名称不定、抹消指定に登録なし。迅速な任務遂行への影響を認めます」 エリーの眉間に、銃口が突きつけられた。 「や……!」 やめて、というメイファの願いは、乾いた銃声にかき消された。 彼女の目の前で一つ、大切な友人の命が消えた。 「……ちっ、火星の連中がついに動き出したか!!」 シュウは忌々しげに舌打ちした。床にこびりついた、もとはベスだった液体を踏みつけると、通信回線を開く。スクリーンには『ブラックドラゴン』に乗った劉の姿が現れた。 「おい、そこのおまえ。勝負はひとまずお預けだ。ちょいと用事ができたんでな」 「ふざけたことを──と言いたいところだが、こちらも緊急の用事だ! この勝負は預けておくぞ!!」 「有り難い。ああ、一つ忠告しておくが、火星の連中とはまともにやり合わない方が……」 彼が最後まで言い切らない内に、劉は回線を一方的に切断してしまった。後には虚しい沈黙が残る。 シュウの背後に、コキアとルクサイトが立っていた。両者とも苦渋に満ちた顔をしている。 「どうするよ、シュウ……あいつらがついに動き出したぜ」 「ああ……こうなったら、あの少年に『ライジングアース』を与えるしかないか……?」 彼はそれだけ言うと、思考の海に沈んでいった。 「……ここからが、真の物語の始まりです」 夜の帳ですら隠しきれない闇──その中で、師走祐司は歪んだ笑みを浮かべた。 「さあ……ディメンシアイレイザー“メイファ”、リナルティアイレイザー“マサキ”……どう演じてくれますか?」 青年の姿が、闇に溶け込んで行き……。 歯車はついに、最終局面に向けて動き出した。 続く |