Re: 第十六期 『終局・始動』 其の三



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ ppp98c7.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/3/02 18:41:32

In Reply to: Re: 第十六期 『終局・始動』 其の二

posted by 柏木耕一(旧・日光) @ ppp98c7.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/3/02 18:40:18

 魔王星──目に見えぬ星、存在すら知られぬ未知の空間。
 その宮殿に、普段はいるはずのない者達が立っていた。
 睦月清一郎・如月亜子・卯月修平・水無月圭祐・霜月菜之。季候衆の各家を代表する、若い男女である。
 彼らの前には、五つの死体が転がっていた。それぞれ帝王(カイザー)・覇王(コンクラー)・法王(ポープ)・大王(グレート)・主(マスター)と呼ばれた者達……マスターペンタゴンのメンバーであった者達。
「あーあ、女王(クィーン)と天帝(オーバーロード)は逃しちまったか」
 そう言って肩をすくめる清一郎。肩まで伸ばした黒髪と、常に吊り上がった唇のせいで、彼の姿からはどことなく“軽い”印象を受ける。
「仕方ないですよ。天帝は殺すなって祐司様から言われてますし、女王は生かしておいても影響はないでしょうし」
 清一郎に向かい合うようにして立っている眼鏡の少女──亜子が、彼を励ますように微笑みかけた。まだ幾分か残ったそばかすが、彼女をとても幼く、暖かく見せる。
「でもさあ、こいつらやっぱバカだよなー。祐司様に『創られた』恩も忘れて、自分達だけでディメンシアを召喚しようとするなんて」
 さも可笑しそうに笑う修平。まだ年の頃十四・五の少年で、どことなく中性的な容姿をしている。
「……人形は──我々にとって面倒なことを代理で処理する、それだけに過ぎん……祐司様がいらなくなったと判断した時点で、どうあれ処分される予定だった……その運命に気付いたのかもしれないな」
 二十代後半、どこといって特徴のない青年……圭祐が、全く感情を込めずに呟く。その目には哀れみも何も窺えない。
「そう言えばー、七罪衆ってどうなったんでしょうー?」
 妙に語尾を伸ばし、菜之が小首をかしげた。ショートカットの、小麦色に焼けた肌が健康的だ。
「七罪衆はMeがKillしましたネ!」
 突然物陰から現れたのは長月薫だった。ずるずると三人分の死体を引きずっている。凄惨な状況の割には、何故か笑顔を絶やさない。残虐さに彩られた笑顔が、彼女の明るさをより異常なものに変えている。
「んーっ、でもHereにいた七罪衆はonly四人だけでしタ。シンとルシファー、ベルゼブブは、whereにいるのかI don't knowでース!!」
「ま、あいつらがいたところでどうなるわけでもねーし。これにて一件落着ゥ!!」
 清一郎が威勢の良い声を張り上げると、全員が遠慮もなく笑う。
 圧倒的なまでの暴力が、彼らの武器であり全てだった。
 魔王星──火星の内部に隠蔽された特殊空間。彼らはただ笑い続けていた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 月から地球に向かう飛行機は、結局何事もなく空港に着陸した。乗っている間中、何かあるのではないかと内心穏やかでなかったメイファとエリーは、あまりにあっさりと到着してしまったので、思わず拍子抜けしてしまった程だ。しかしレイの表情は終始厳しいままだったので、二人の気はそれほど安らぐことがなかった。
 空港の中は、予想通りがらんとしていた。これで経営が成り立つのかと不思議になる程人気がない。ぽつりぽつりと、ロビーに僅かな人影が見えるぐらいだ。それらも時間が経つと何処かへと消えて行き、三人は空港の中に取り残された。
 並んで歩いていても、レイは周囲を厳しく警戒しているようだった。話しかけようとするが、その度に意気が挫かれる。何とはなしにエリーの方をちらりと見やると、彼女はどうしようもないとでも言いたげな素振りで肩をすくめた。
 ──どうしたっていうのよ。
 メイファは深く息を吸い込んだ。意を決して、隣を歩く少年に話しかけようとしたその瞬間。
 乾いた音が響き、時間が止まった。

(……何?)
 一瞬、メイファは何が起こったのかわからなかった。
 乾いた音──過去に何度か聞いたことがある。あれは銃声だ。
 エリーの喉から飛び出した悲鳴に包まれて初めて、彼女は何が起こったのかを理解した。
「レイッ!!」
 少年の腹部から、鮮血が溢れ出ていた。彼は撃たれたのだ。
「ま、さか……弥生が、動く、とは──ね……」
 苦しげに呻くレイ。そんな彼を見下すようにして、いつの間にか現れた女性が、三人の前に立っていた。
「レイ=シオン──D級抹消指定。S級任務完遂に影響なし、メイファ・ノーブル捕縛の任務を最優先します」
 ぎこちなく機械的な呟きは、あまりにも無機質で冷たい。栗色の髪をポニーテールにしたその女性は、メイファの腕をがしりと掴んだ。
「ちょっ、嫌!! 止めて! 離してよ!!」
 必死に抵抗するが、華奢な外見とは裏腹に、女性の力は恐ろしく強かった。メイファの力では、到底ふりほどくことなどできはしないだろう。 
「ちょっと、やめなさい!! 離しなさいよ!!」
 エリーが女性の腕を掴み、何とかメイファを助けようとした。しかしどれほど力を込めても、女性の指一本動かすことすらできない。女性は自分の腕を掴んでいる少女を冷たく一瞥すると、メイファにしか聞こえないほどの小声で独白した。
「名称不定、抹消指定に登録なし。迅速な任務遂行への影響を認めます」
 エリーの眉間に、銃口が突きつけられた。
「や……!」
 やめて、というメイファの願いは、乾いた銃声にかき消された。

 彼女の目の前で一つ、大切な友人の命が消えた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……ちっ、火星の連中がついに動き出したか!!」
 シュウは忌々しげに舌打ちした。床にこびりついた、もとはベスだった液体を踏みつけると、通信回線を開く。スクリーンには『ブラックドラゴン』に乗った劉の姿が現れた。
「おい、そこのおまえ。勝負はひとまずお預けだ。ちょいと用事ができたんでな」
「ふざけたことを──と言いたいところだが、こちらも緊急の用事だ! この勝負は預けておくぞ!!」
「有り難い。ああ、一つ忠告しておくが、火星の連中とはまともにやり合わない方が……」
 彼が最後まで言い切らない内に、劉は回線を一方的に切断してしまった。後には虚しい沈黙が残る。
 シュウの背後に、コキアとルクサイトが立っていた。両者とも苦渋に満ちた顔をしている。
「どうするよ、シュウ……あいつらがついに動き出したぜ」
「ああ……こうなったら、あの少年に『ライジングアース』を与えるしかないか……?」
 彼はそれだけ言うと、思考の海に沈んでいった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……ここからが、真の物語の始まりです」
 夜の帳ですら隠しきれない闇──その中で、師走祐司は歪んだ笑みを浮かべた。
「さあ……ディメンシアイレイザー“メイファ”、リナルティアイレイザー“マサキ”……どう演じてくれますか?」
 青年の姿が、闇に溶け込んで行き……。

 歯車はついに、最終局面に向けて動き出した。

 続く