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投稿者:
神村はるか @ 202.231.192.180 on 98/1/30 01:18:57
In Reply to: 1センチの勇気 A面
posted by 神村はるか @ 202.231.192.180 on 98/1/30 01:17:03
雅浩は考えていた。購買部の前にある紙パックのジュースの自販機の前で。
今、ポケットには小銭がない。いや小銭どころか一銭も持っていないのである。
あまりに喉が渇いたので慌ててお金を入れようとしたのがまずかったのだろう。
90円ちょうどだけ持っていたのが運の尽きだったのだろうか?
最後の10円を入れようとしたときにお金を落としてしまった。
更に運の悪いことに、そのお金が自販機と壁のあいだに落ちてしまった。
手を伸ばせばとどかない距離じゃないと判断したのか、壁と自販機の間に
手を入れてすぐそこに見える10円を拾おうとした。
その時の雅浩には、後で買うということは頭になかった。
あともう少し、そう、あと1センチで届くと思った時、
「後藤・・君? 何してるの?」
「えっ」
思わず声を上げて振り返った。その声には聞き覚えがあったからだ。
雅浩にとってはこんな場面では絶対に会いたくない人の声だった。
「どうしたの、後藤君?」
「ははは、鈴木さん、えっと・・」
最悪である。まさか落とした10円を拾うために手を突っ込んだなんて恥ずかしくて言えない。
せめて100円だったらなぁ、などとつまらないことを考えてしまった。
いつもなら、彼女と話す機会を無理矢理にでも作ろうとするのに、今日ばかりは、
早く行ってくれないかなと願うしかなかった。
しかし彼女は自販機の入金の表示窓の金額をみて気が付いたのか、
「もう、しょうがないわね、はい。」
そういって雅浩の手に10円を渡して離れていった。
憧れの鈴木さんと話す機会が出来たのは嬉しかったが、
最悪の印象を与えたような気がして、ひどく落ち込んでしまった。
それでも、ジュースを買うことだけは忘れなかったのは、やっぱり照れ隠しからだろうか?
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