愛の十五分劇場 『相川健太郎の場合』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p26-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/10/13 13:11:08

 ずっと待ってたんです。
 私、先輩のことだけを見て、ずっと待ってました。
 先輩に近づくために美術部に入って、難しい本を一杯読んで、慣れない絵筆を使ったり……色々しました。
 それでも先輩は気付いてくれなかった。
 わかってます、私が悪いんだってこと。
 私が話しかければ、全部丸く収まるんだってこと、わかってます。
 でもね、先輩。

 それができないんです。だって私、頭がオカシイから。
 日に日に精神が崩れていくのがわかります。
 もう、言葉なんて、ほとんど……本能の赴くままに紡いでいるだけ。何の考えもなしに、ただ口だけ動かして……喋ってます。

 先輩はこんな女の子に話しかけられるの、イヤですよね? みんなの前で話しかけるなんて、そんなこと絶対にできない。先輩に恥をかかせちゃうことになるもの。それだけは絶対イヤ。先輩と話せないことよりイヤ。
 だから私、先輩が一人になって……誰もいないところで話したいなって、思ってました。
 その願いが今日、叶ったんです。
 不思議ですね、先輩。
 あの約束をしたのも、ちょうど同じように、学校の屋上でしたもの。ほんと、偶然って不思議。
 ホントはね、先輩。
 今日、お願いがあったんです。
 でも途中で邪魔が入っちゃった。
 もう、せっかくの記念日なのに、最低ですよね。
 でも先輩、あの人先輩の従兄弟なんですよね。確かに、近い感じがしました。先輩は夜みたいだけど、あの人は……朝、って感じかな。私、朝って好きですよ。低血圧じゃないもの。でもね、夜はもっと好きです。ベッドにもぐって、開けた窓から見る夜空って素敵ですよね。私、好きなんです。
 あ、何を言いたいのか、わかんなくなっちゃったな。

 私ね、ずっと待ってたんです、今日のこと。
 先輩と二人っきりで会える日を、ずっとずっと待ってたんです。
 あの日の約束、もう忘れちゃってますよね。
 でも大丈夫、私はしっかり覚えてます。
 私が思い出させてあげます。だから大丈夫、先輩は忘れちゃってても大丈夫。

 ねえ、先輩? 私、ほんとうに、ずっとずっと待ってたんですよ。

 ねえ、先輩。

 約束、守ってくれますよね。

 私を、殺してくれますよね。

 続く